―Summer・Smile・Load―-1
『………なあ。』
『ん??なに??』
『なんでセミはあんなにうるさいんだろう。』
『………そんなのセミの自由じゃない?』
『んー……。』
オレと彼女は立ち止まり、木の上の方から聞こえてくるセミの声に耳を澄ませた。
―――ミーンミーンミーン
『セミって自由だよな。』
『地上に出てきて一週間くらいで死んじゃうんでしょ?…うーん……。けどうちらの方が自由じゃない??』
……彼女は幸せそうにオレに言う。時刻は夕方…。
『じゃあね!!また明日!』
『バイバイ。』
彼女はいつも別れの時は笑顔だ。
一年後。オレは彼女と歩いていた道を一人で歩いている。彼女はあの夏の日からちょっとしてから病気にかかった。不治の病だった。最初は笑顔を絶やさなかった彼女も……日が進むにつれて弱っていった。そして彼女が死んだ時、オレは泣いた。彼女は死ぬ間際でも……笑顔をオレの為に作ってくれた。……失ってから知った彼女の存在はあまりにも大きかった。
『わたしが……死んでも……つ……強く…生き………て…。』
―――ミーンミーンミーン
やかましいセミの鳴き声が聞こえる。あの時の会話はいまだに思い出せる。その度に彼女の顔がオレの頭に蘇る。
オレは一つの木の前に立ち止まる。耳を澄ませて。目をつむり。
セミの声はやはり聞こえる。頭の中に入り、脳を震わせ、オレは理解する。彼女が死んでからオレは何も変わってない。……セミの声が去年と同じように。なにかが、……なにかがオレを縛りつけている。
―――ミーンミーンミーン
なんて情熱的なんだろう。おまえはすぐに死んでしまうのに。
オレは目を開け、しばらく余韻に浸っていた。
『今日は午後からバイトだったな……。』
オレは道を歩き出した。その時、なにかを踏み付けた。目をやると………それはセミの死骸だった。セミの死骸は形が崩れ、中まで見えていた。
『………っ…。』
なんなんだろう?この気持ちは。セミの死骸なんかに感情的になるな。なんだろう?……とても悲しい……。
そうか、オレは理解した。
『………。』
オレは彼女の死が受け入れられなかったんだ。心の中のどこかで。
オレを縛りつけてたなにかはオレ自身だったのか。
セミは元気な声を出しながら死んでいく。……人間も人それぞれが…なにかをして死んでいくのだろうか…。彼女はどうだったんだろう?死までの時間の間に…彼女はなにを示してきたんだろう?……彼女はきっと……。
『………よし。』
オレは長い人生を……自分を見つめながら…生きていく。…オレはこの道を歩く。来年も再来年も。またここのセミの声を聞きにこよう。ここじゃなきゃダメなんだ。
オレと彼女の二人で聞いた場所だから。