刃に心《第10話・Good Morning》-1
朝。一日の始まり。
憂鬱な朝もあれば、期待に胸膨らます爽やかな朝もある。
そして、此所にも朝を迎える者が一人。
《第10話・Good Morning》
◆◇◆◇◆◇◆◇
「ん…んぅ…」
眩しい朝の陽射が僅かな隙間を縫うように和室に差し込む。
此所を自室として借りている楓は目を擦りながら身体を起こした。
「むぅ…少々、寝過ぎたか…」
そうは言うものの、時刻はまだ5時。
太陽が昇ってからそんなに時間は経っていない。
「いかんな…父上と暮らしておった頃は日の出とともに目覚めたのだが…こちらに来てから少したるんでしまったか…」
布団から抜け出す。
買ったばかりのパンダ柄のパジャマがまだ身体に馴染まず、昨夜は少し寝苦しかった。
それを脱ぎ、手早く着替えた姿は凛々しい胴着と袴。そして、近くに立て掛けてあった居合刀を腰に差すと静かに障子を開き、部屋を出た。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「おはようございます」
「あら、おはよう♪いつも早いわね」
台所では、しのぶが3人分の弁当と朝食を作っていた。味噌汁の良い香りが湯気とともに立ち込めている。
「いえ。奥方殿には負けます」
「ふふっ♪その奥方っていう呼び方も奥ゆかしくて嫌いじゃないけど、もっとフレンドリーに呼んでくれてもいいわよ♪」
しのぶがにこやかに言った。
「例えば…お義母さんでも♪」
「い、いえ!私はまだそんな…未熟者でして…」
楓の顔が赤く色付くのを見て、しのぶはより一層ころころと愉快そうに笑った。
「で、では私はこれにて…」
「今日も庭で稽古?」
「はい」
「無理しちゃダメよ?」
「お心遣い、痛み入ります」
そう言って楓は頭を下げると、玄関に向かった。草履に履き替え、扉を開く。朝焼けに白む世界が楓を待っていた。少し眩しそうに手を額辺りにかざし、目を細める。
「…やはり、朝は気持ちが良い」
そう呟いて大きく息を吸い込むと、楓は庭の方へ歩いていった。