刃に心《第10話・Good Morning》-4
「かえ…で…」
「!!!」
楓は硬直した。
ばれたのだろうか?
しかし、疾風の目は開かない。寝言のようだ。
ほっと溜め息。
(び、びっくりするではないか…)
「楓…」
またも楓の名を呟く。
(わ、私の夢を見ておるのか?だとしたら、どんな…)
『…』の後に続く台詞が頭の中に広げられる。
(楓…愛してる…楓…一緒になろう…)
勝手な想像、もとい妄想が展開され、頭の中で映像、具現化されていく。
「楓…い…」
(い!?い、いいい一緒になろう…なのか!?)
バクバクとけたたましい音をたて、心臓が鼓動する。
(は、疾風がそう言うのであれば私は…)
疾風の口がもぞもぞと動き、言葉の続きを発した。
「…いくら…」
(…いくら?)
楓の頭から甘い雰囲気が消え、代わりに北海道名物の赤い粒々が現れる。
(それが私と何の関係が…)
楓がそう思っていると…
「……いくら…パンダ好きだからって、着ぐるみで学校へ行くのは無理だよ…」
「………」
楓は無言でうなだれた。期待してた分、ショックも結構なものである。
「んん…無理だって…その上から制服着ても無理だって…パンダじゃ学校には行けないんだって…」
プルプルと楓の肩が揺れる。臨界点突破まで、残り僅か。
「…そんなもの………着るか、馬鹿者ぉお!!」
神速の手刀が見事に疾風の腹部に決まる。布団を突き抜けてダメージを受ける疾風。
「ぐおっ!?」
「朝だ!下らぬ夢を見てないでさっさと起きぬか、この馬鹿者!」
荒々しい一発で強制的に起床。
「な、何を朝から怒ってるんだよ…?」
「ふんっ!自分の胸に手を当てて聞いてみるが良い!!」
疾風は胸に手を当てた。胸は何も答えてはくれなかった。