刃に心《第10話・Good Morning》-3
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家に入り、シャワーを浴び、学校の制服に着替えた。一度部屋に戻り、刀を立て掛けると再び台所へ。
「お疲れ様♪そこに牛乳出しておいたから」
「お忙しいのにすみませぬ」
「いいのよ♪その代わりと言っちゃあ何だけど、二人を起こしてきてくれない?」
「承知致しました」
コップに注がれた牛乳を飲み干すと楓は疾風と霞の部屋へ向かう。
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トントンと扉を叩く。乾いた音が響いた。
「霞、起きておるか?」
しばらく待ったが、返事が無いので中へ入る。
「霞、朝だぞ」
「んん…」
布団の中で霞が蠢く。
「もう…食べられない…」
ぼんやりと霞が呟く。
「何とまあ…寝言の王道を…まさか本当に言う奴がおるとは…」
楓が半ば呆れ気味に、半ば尊敬の気持ちを込めてそう言うと、また霞の口が動く。
「もう…食べられない…」
「ある意味貴重な体験をしておるな…」
「もう…食べられない…食べられないよぉ!やめて!もう無理!入らない!やめてぇ…」
「………」
「ごめんなさぁい…」
「幸せ一杯の夢かと思ったが…こやつは拷問でもされておるのか?」
「言うからぁ…兄貴の居場所言うからぁ…」
「しかも、実の兄を売ったぞ」
「兄貴は…学校の…教卓の…し…た……」
「疾風もどうしてまたそんな所に…じゃなくて!起きろ霞!朝だ!」
「んん…ふぁっ…」
楓が激しく霞の身体を揺らすとようやく起床。
「おはよぉ…楓…ふぁああ…ねえさん」
「おはよう。何やら、うなされておったが、大丈夫か?」
「…何か…変な夢を見てたような…」
「まあ、良い。早く支度をしろ」
「ういーす…」
霞が眠そうに敬礼すると楓は疾風の部屋へ。
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霞の部屋と同じくノックをし、問い掛けたが、こちらも反応無し。
「入るぞ」
そう言って部屋に入る。
だが、先程の霞の時とは違い、すぐに起こそうとしない。
眠る疾風にこっそりと近付くと顔を覗き込む。
「ふふっ♪気持ち良さそうな顔をして…」
口を半開きにして眠る疾風を見ながら、楓は穏やかに微笑む。
疾風がまだ起きないのを確認すると楓は手を伸ばし、髪を撫でた。
(こやつも眼鏡を外し、髪を切ればそれなりの顔をしておるのにな…)
うっとうしい前髪を押し上げると楓は思った。
(それにしても、よく寝ておる…これなら、並大抵のことでは起きぬであろう…)
スッと疾風の顔をさらに覗き込む。楓の心臓が激しく動き出した。
(………並大抵のことでは起きぬ今なら…)
楓の目が潤む。桜色の頬が近付いていく。
口から淡い吐息が零れ、疾風にかかる。
(…って、いかん!いかん!そんな寝込みを襲うような真似など!)
直前で自らの本能を理性で制し、慌てて首を振る。