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刃に心
【コメディ 恋愛小説】

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刃に心《第10話・Good Morning》-2

◆◇◆◇◆◇◆◇

忍足家の庭は家の裏手に有り、辺りからは少し見えにくくなっている。
広くは無いものの花壇や草木が有り、楓が剣を振るうのには十分な大きさである。
楓は腰に刀を佩いたまま、足を肩幅に広げ、目を閉じた。
さわさわと風が頬を撫でる。その風に乗った甘い花の香りが気分を和らげる。
楓はその甘い風を感じながらゆっくりと深呼吸を始めた。
深く長く、時間を掛けて気持ちを落ち着かせ、自分の呼吸音しか聞こえなくなった瞬間。

───シャラン…

鞘鳴りと共に鍔の無い居合刀を撃ち出した。
刀は銀の剣線を虚空に引き、ピタリと楓の中心で止まった。
両の眼は開かれ、真っ直ぐに正面を見据えている。
朝日に刀と瞳が輝く。
斬られることを知りつつも、手を伸ばしてしまいそうな銀色の美しさがそこにはあった。

(今日も調子は良さそうだ)

手首を返し、両手で持つと今度は頭上に掲げ、瞬時に振り下ろす。
ヒュンッと風を斬る音が心地良く耳に響く。

(それにしても、お義母さんとは…)

下からの斬り上げ。草が少し刈り上げられ、風に舞う。
楓の顔が少し嬉しそうに綻んだ。

(これは認められていると思って良いのだろうか…ふふっ♪それならば、千夜子殿より有利な位置に…)

剣先を少しずつ下ろしていき、刀を横へずらす。
鯉口に峰を滑らせながら刀を鞘に納める。

(あやつは…疾風はまだ寝ているのか?)

楓は二階の部屋を見た。カーテンはピッタリと締まっており、人が起きている気配は無い。

(朝の稽古は気持ちが良いのにな…)

疾風はとりわけ忍の技を磨いているようには見えない。時折、楓や霞と組手をしているくらいである。

(それだけであの動きとは…やはり、天賦の才が大きいのだろう)

疾風が努力していない訳では無いが、あれだけの動きをするには才能が果たす役割は大きい。

(それとも、密かに稽古しておるのだろうか?まさか…千夜子殿と…)

千夜子は格闘技をしていると楓は疾風から聞いていた。一戦を交えたことはまだ無いが話を聞く限りでは甘い相手では無さそうである。

(いや…許婚を信じないでどうするのだ、楓)

ブンブンと頭を振り、仲良さそうに稽古をする二人のイメージ映像を消し去る。

(だが…もし…)

ビュウ…と強めの風が吹き、楓の目の前を一枚の木の葉が舞い踊る。

───シャラン…シャ…キン。

(一度、問い質してみるか…)

一瞬で抜刀と斬撃、そして納刀を行うと楓は家の中へと戻った。
庭には二枚になった木の葉が残されていた。


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