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Mirage
【純愛 恋愛小説】

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Mirage〜4th.Weakness-5

「どうしてあんな賭けしたんです?」

僕は目の前の美女に言った。彼女は悪戯っぽく笑ってアメリカンを口に含んだ。

日はとうに傾き、街を茜色に染めている。その黄昏色に追われるように帰路に着く高校生のカップルが仲睦まじそうに笑い合いながら自転車を押していた。そんな中、このシチュエーションにオーバー・ザ・カップ・オブ・カフィ、という高校時代に使っていた『センターに出る!!英語究極イディオム集100』に載っていた言い回しを思い出す自分がひどく滑稽に思えた。ちなみに、センター試験の問題用紙にはその表現はどこにも見当たらなかったのはまた別の話。

「だって、ああでも言わないと、君は私に付き合ってくれないんじゃないか?」

「僕が負けたらどうするつもりだったんです?」

実際はいつもどおり僕の圧勝。時間は20分もかからなかったのではないだろうか。面白くないので、教授の陣地をほとんど丸裸にしてやったぐらいだ。僕があのタヌキに負けるなんてことはまずありえなかった。

「多分生理痛が始まっていた。激しく」

もっと相応しい言い訳ぐらいあるだろう、と突っ込みたい衝動を抑え、ため息をついて僕もアメリカンを呷った。呷りながら、目の前の美女を観察してみても、とりわけ何を考えているというわけでもなさそうで少なからず安堵する。

「さて、どこに行きたいんです?」

僕はトレイを持って立ち上がる。

「君のバイク」

先輩も僕に倣って立ち上がった。

「一度乗ってみたいと思っていた」

ヘルメットは家に帰ればスペアがある。けれど。

「ダメです」

僕は振り返り、トレイを戻しながら言い放った。別に運転に自信がないとか、そういうことを問題にしているわけではない。それでも。

「下手したら死にます。運転者よりも実は同乗者の事故死率のほうが高いんです」

突き放すように言ったつもりだった。だが、彼女はトレイを戻した後、意味深な笑みを浮かべて僕に向き直った。

「誰が後ろに乗るって言ったかな?」

先輩は右手に掛けたハンドバッグを漁り始めた。言っている意味のわからない僕はただその様子を伺うだけだ。

「運転は私がするから、君は黙ってしがみついていればいい」

そう言って彼女は僕に一枚のカードを渡した。眼光が不必要なまでに鋭く、髪の長い女性の写真。このまま引き伸ばして交番の前に張っておけば、通報の電話がいくらでも舞い込んで来そうだ。

けれど、注目すべき箇所はそこではない。そのカメラマンへの敵意むき出しの写真の下の方には「普通」と「普自二」 の表示。

僕がその免許証から顔を上げると、奥原夕紀は口の右端を吊り上げ、満足そうに笑った。


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