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Mirage
【純愛 恋愛小説】

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Mirage〜4th.Weakness-14

そういえば、高末が言っていたことも気になる。ゼミの先輩とコーヒーを飲んでいただけでどうして明治期の政治家のような目で見られなければいけないのだろう? そもそも、どうして彼女がそんなことを知っているのかさえ不明だ。

「そういえば、あの人の彼氏って──」

「誰の、何だって?」

思わず声に出してしまったところに、ここしかない、というタイミングで奥原先輩は現れていた。この間と違って私服姿の彼女はすらりとした足をローライズのジーンズに包み、ノースリーブのカットソーという出で立ち。

「先輩って彼氏いるのか、って言ったんですよ」

どうせ聞かれているだろう、そう思ってはっきりと叩きつけるように言った。

「ほぅ」

僕の隣に座った先輩は愉しそうに唇の右の方だけを吊り上げた。

「ついに神崎も私に靡いたか」

馬鹿ですか。

思わず言いそうになったが、それは喉の奥でため息に変えた。そして、もういいです、と搾り出した。

「怒るな怒るな。冗談だろう?」

「当たり前です」

僕は言いながらコーヒーの缶を脇にどけ、資料を先輩の方へと寄せた。どうせ一度は見たものなのだから、先輩に見せて決めてもらったらいいだろう。

資料の山に向かって伸びた彼女の腕は掛け値無しに美しかった。透き通るように白くありながら、決して病的な印象を植え付けることがない彼女の腕に、今日だけで何人の何も知らない悪い男たちが目を奪われたのだろうか、という疑問を浮かべた自分が少し恥ずかしい。

彼女は一枚につき20秒もかけなかった。早いものは一瞥しただけで次に流した。きっと買い物に迷わないタイプだ。

持って、見て、流す。

持って、見て、流す。

時々思い出したようにすらりと伸びた両足を組み替える以外はほとんど無駄な動きは無い。奥原先輩は辛抱強くその作業を続けた。──いや、辛抱強く、というのは僕の勝手な思い込みかもしれない。

「ふぅ」

先輩は全てに目を通し終わると小さく息を吐いてソファに身体を埋めた。

けれど。

「先輩?」

僕は笑いをこらえるので精一杯だった。

「何だ?」

先輩もそれに気付いているのだろう。口の端が上がっていた。

「今年のうちのゼミ、三人でいきますけど、いいですか?」

「当然だろう」

決壊。

堰を切ったように。

いくらでも表現する方法はある。けれど、事実は一つ。

僕たちは笑った。狂ったように笑い続けた。声を上げ、子どものように。

半開きのドアからは間違いなく音が漏れているだろう。他の研究室から苦情が来たとしても何ら不自然はない。けれど、他の知らない教授が入って来て、罵られたとしても僕たちは笑っていただろう。


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