Mirage〜4th.Weakness-10
「これって…」
「見ての通りや。高末は何しに来たん?」
高末は顔を若干引きつらせたあと、あきらめたように息を吐いた。
「ゼミのレポート完成したけぇさ,持って来たんやけど…」
広島出身の高末は、関西弁と広島弁の混ざり合ったような不思議な言葉を操る。
「タヌキは群れに帰っていったで」
言った後で思った。タヌキって群れるのか?
けけけ、と高末は奇妙な声で笑う。
「じゃあ置いていくけぇ、渡しといてくれる?」
疑問形で聞いてはいるものの、高末はファイルを僕の眼前まで突き出してほぼ強制的に預からせる姿勢。正直言って、僕は高末が少しだけ苦手だ。何となく彼女から感じる違和感が僕にそう思わせていた。
「あ、それからな」
僕が封筒を受け取ると、一度は踵を返した高末だが、思い出したように言って後ろで一つに括った髪を翻した。
「神崎くん、最近夕紀先輩と仲いいんじゃろ?」
反論しようとして開いたその口を、思い直して再び閉ざす。確かに、昨夜のあれをそう解釈できなくは無い。しかし最近、というのには語弊があるだろう。昨日だけ。それが一番正しい表現と言えよう。
「昨日仲良くコーヒー飲んでるとこ見つかっとるけぇ、あんまし面白く思ってないヤカラがおるらしいで」
「‥‥‥‥」
そんなこと言われても。
僕はそう思ったが、それを彼女に言ってもしかたがあるまい。
「ま、気付けていいで」
ドアが閉まる直前、高末が薄く笑ったような気がしたのは、多分気のせいか、僕の性格が歪んでいるせいだろう。
約束の時間には、まだ時間がありそうだ。