恋する日々〜アガパンサス〜-1
ここは斗有中学校。今日は終業式。別れを惜しむ者、涙を流す者、告白をする者、生徒はそれぞれ最後の中学生の時間を過ごしていた。
「…はい、これからよろしくね」
「えっ…?ほ、本当に?」
「うん、私…仁志君の事好きだから」
学校の校舎裏、生徒がよく告白をする場所で一組のカップルが誕生した。だがそこには二人ではなくもう一人、立ち合い人がいた。
「…いやぁ〜よかったよかった。おふたりさん、幸せにな」
「ありがとな神那。それもこれも全部お前のおかげだよ」
「いいって事よ。…ほら、いつまでもこんなとこにいないで行った行った」
神那と呼ばれたその場にいた男はシッシッと手を振りつつその場から立ち去るように二人を促した。
「そうだな、じゃあ行こうか英子さん。」
「うん。本当にありがとうね、神那君。」
二人は手を繋ぎながら去って行き、その場には一人しかいなくなった。
「………はぁ〜〜〜」
男は二人がいなくなったのを見計らってから深い溜息をついた。
「前々から思ってたけどさ本っ当損な生き方してるよな、お前」
「理解できんな」
「出世できないね、きっと」
茂みの中からガサガサと音をたてながら男の友人らしき人物が現れた。
最初に現れたのは工藤信太。グループの中ではムードメーカー的な存在でありいつも場を盛り上げている。次に現れたのが柳礼。常に不機嫌そうな顔をしてるがそれはいつもそうであり他の三人は特に気にしてはいない。最後に現れたのが美袋香織。グループ内の紅一点で唯一の女性。男とは長い付き合いで男女の関係というよりは男友達という方が正しいのかもしれない。
「お前等な…人が傷ついてんだから少しは慰めようとは思わんのか!!」
「全然?」
「今ので30人目だろう?いい加減馴れただろう?」
「いや、40人目だよ」
そして三人にボロクソに言われた男が神那誠。グループの中心人物である。
「うぉっ!なんて奴らだ…人の心の傷をえぐりやがって!」
「そうは言うが好きになった女を片っ端から他の男とくっつけさせてるお前が悪い。」
礼はかけていた眼鏡を直しながら淡々と答える。
「うっ…いや…だってさ?その…そいつらがその子のこと好きだって言うからさ…?」
「阿保か!そんなんじゃいつまでたっても彼女できねーぞ!いいか?お前は人がよすぎなんだよ。お前は少し悪いくらいがちょうどいいんだよ」
「うわ、信太が普通な事言った」
「珍しいな。明日は雨かもしれんな。」
「どういう意味だ、てめぇら!」
「くっ…偉そうに言うけどな!そういうお前等こそ恋人いねぇじゃねぇかよ!」
誠は反撃とばかりに三人に言い放つ。が…
「これだっ!っていう子がいないんだよ。あっ、その気になりゃいつでも作れるぜ。お前と違ってな」
「面倒だからいらん」
「誠にいい子ができないと安心して彼氏作りに専念できないよ」
それは無情にも三人には通用しなかった。
「ぐっ!!お前等…!!これで勝ったと思うなよぉぉぉっ!!」
叫びながら誠は明後日の方に走り去って行った。
「あ、逃げた」
「俺達はなにに勝ったんだ…」
「少しイジメすぎたかな?」
走り去る際に涙が見えたのは皆見て見ぬ振りをしていた。けなしてはいるがそれが彼等なりの慰め方なのだ。
「い、いいんですか先輩方?神那さんほっておいて?」
後ろから彼等の後輩らしき男がひょこっと出てきた。彼は西園寺将。自称誠の舎弟であり慕って行動を共にしている。不良ではあるが年上には礼儀正しく何かと気がきくいい後輩である。
「あぁいいのいいの、いつもの事だから」
「春休み中には元に戻るだろ」
「はぁ…先輩方がそういうならそんなんですね」
内心、本当に大丈夫か?と思いつつも二人の薄情な受け答えに相槌をうつ。
「じゃあ、私達もそろそろ行くから。またね、西園寺君」
「はい!先輩方!卒業おめでとうございます!高校でも頑張ってください!来年は絶対同じ高校に行きますんでその時はよろしくおねがいします!」
「誠にも伝えとくよ、じゃあな」
将の心からの激励を受け彼等は学校を後にした。