パシリと文学部と冷静男-10
◇
陽が傾き、空が茜に染まりはじめた。
夕日に赤く染められながら、栗花落たちはまだ屋上にいた。
「あ、皆さん、もう結構いい時間ですが帰らなくていいんですか?」
「……ん、もうこんな時間か。では、今日はそろそろ帰るとしようか」
「そうだなぁ。栗花落たちも、もうすることとかないだろ?」
「無い。……ああ、やっと帰れる。今日だけで無駄に日焼けした……」
「んー、あんまり変わってないよ? それにいっつも家の中じゃよくないよ」
「そうですね。たまには日光を浴びたほうが健康的でよろしいのでは」
「ずっと日陰にいたやつがそれを言うか」
「さてさて、じゃれるのはそれ位にしておきたまえ。おや栗花落くん、いつもながら半目が上手だね。それじゃあこれから高台の公園まで行こうか」
「……まてコラ」
「おっと、疑問は受け付けないよ。ふふ、高いところから週末の花火見物によさそうなポイントを探しているのがバレたら、当日つまらないからね。こことあの公園で街の半分は吟味できる」
「ああ、そう言えばもうそんな時期ですねー。さすが部長ですねっ。ほらいっちー、やっぱり部長はすごいじゃん」
「当たり前さ。直前に皆をベストポジションへと案内して崇め奉られひれ伏されるためならこれくらいの労力など……、っと五十嵐、貴様せっかく密かに計画していたのにバラすな!」
「俺のせいかよ!?」
「つ、突っ込みどころはどこなんでしょうか――ってなんで皆さん目を逸らすんですか!?」
「さて、空気は放っておいて。部長がめずらしく良いことを言ってますが幸一郎さん的には?」
「……有り難いかもしれないが皆で行く意味があるのか知りたい」
「それもそうだな。驚かしたいなら俺らまで行ったら意味が無いしな」
「ですね。それに下見だったら自分が――っとまたパシリ自認ですか!?」
「ふむ、では理由を知りたいかね? いいね? それは私たちが文学部」
「あーはいはい。アンタはすごいよ。……さっさと行くか」
「そうだねー」
「確かにそうですね。では行きましょうか」
「む、まさか私を差し置いて先を行こうなどとは言うまいね」
「へいへい、お前がいないと始まらないんだからさ、早く行こうぜ?」
騒つきながらそれぞれ立ち上がり、校舎内に入っていく。
崎守は数歩遅れて、皆の後ろ姿を眺めながら思う。
はっきり言ってこの濃い面子の中でやっていく自信はない。そうなれば空気を乱しはしないだろうか、それで疎まれたりはしないだろうか。そんなことばかりが気に掛かる。
「おーい」
思考を引き戻したのは長谷部の声だ。気が付けば崎守の足は止まっており、皆が先に待っていた。長谷部だけは崎守の顔の前で手をヒラヒラと振っている。
「おや戻ったかい。早く来たまえ」
「あ、す、すいません」
あわてて答えると、また皆が歩きだす。