真夏のバス停-1
ミーン、ミンミーン……
遠くで蝉が鳴く、真夏の午後だった。
俺は、どこか遠くに行きたくて適当なバスに乗り、気紛れな所でバスを降りた。
うだるような暑さと静けさ。
カラリと晴れ、絵に描いたような青空と照りつける太陽。痛いほどの日差しが降り注いでいる。
「暑っー」
灼けたアスファルトが揺めいている。
バスを降りたはいいが、知らない土地に行くあてもない。
「誰も居ねぇし…」
屋根と壁しかない簡素な田舎のバス待合いのベンチに座り、呟く。
辺りは蝉の声だけで、車も人も見かけない。
まるで、俺だけが別の世界に飛んだような、妙な感覚。
鬱陶しい程の暑さに身を任せ、そっと目を閉じる
「わぁ、珍しい。」
突然、上から降って来た声に驚いた。
「見ない顔、だね。」
「……え、ああ。」
「何してんの?」
「何ってここ、バス停だけど…」
「次のバスなら、2時間近く来ないよ?」
「…みたいだな。」
女だった。
バスを降りてから、誰も見かけなかったこの街で、初めて人を見た。まるで何年も誰にも会わなかったような、変な気分だ。
水色のワンピースに赤いリボンの麦わら帽子。
どこにでも居る女だが、不思議な女だった。
「何しに来たの?こんなとこ、何もないよ。」
「え、いや、なんとなく…」
「休めたかったの?…──心を」
「そうかもな。」
不思議な女だった。俺の心を見透かされている気がする。
「君、振られたんでしょ。」
…マジで見透かしてんのか?
「暇だし、話聞いてあげるよ。」
女の言葉には、それ以上の意味はない。
おせっかいさも、煩わしさも、恩着せがましさもない。
それが何だか心地良く、口を開いた。
菜月と別れたのは、一週間前。
俺は入社3年目で、一大プロジェクトへ抜擢された。
忙しくなる仕事。
会う時間は減り、メールも電話もなかなか出来ない。
「ねぇ、いつになったら会えるの?」
「プロジェクトが終われば、休み取れるから。」
「前もそう言った!」
理解ある彼女だった。
しかし、その前から俺たちの関係はギクシャクしていた。
終わりは呆気なく訪れてた。
「私と仕事とどっちが大事なの!?」
こんな事を聞かれ、困らない奴は居ない。
一気に俺たちは崩れて行った。