真夏のバス停-2
「チャンスだったんだ。あの仕事で成功出来れば、出世出来る。」
「そしたら?」
「あいつに…プロポーズするつもりだった。」
「へぇ。それで?」
「あんな事、言う奴じゃなかったんだ。あいつを追い詰めたのは、俺だよな。」
「そうだね。」
この女は、話を聞くと言った割にはイマイチ聞いているのかいないのか、よく分からない。
それどころか、慰めてんのか追い込んでるのかも、本当にそこに存在しているのかいないのか、すらも分からない。
「君たちが別れたのは、運命だったんだよ。例えその時、別れなくても、いずれどこかで辿り着く。そういうものだよ。」
「でも俺は、本気で好きだった。」
「関係ないよ、運命にそういう感情は。」
少し肩を落とした俺に、でも、と付け加えた。
「君の気持ち次第では、運命も変わるかもしれないよ。」
「え?」
サァ──…と小さく風が吹いた。
女は、意味深に微笑む。
そして、バス停の妙な静けさを切り裂くようにバスが止まった。
「着たね、バス。」
もう2時間が経ったのかと思いながら、バスに乗り込み振り向いた。
しかし、女の姿は跡形もなかった。
「何だったんだ、あの女。」
気晴らしにやって来たこの街は、疑問ばかりが残る。
けれど、慰めてんだか追い込んだか、そこに存在しているのかいないのか、結局よく分からない女に
確実に俺は救われた。
「……はい、もしもし?」
「あ、菜月か。俺だけど…」
「あ、うん…久しぶり。」
一週間ぶりに聞く菜月の声。
別れた事が、遠い昔の事みたいに思える。
「どしたの?急に。私たち別れた、よね…」
「菜月……俺はお前も、仕事も大事としか言えないけど、やっぱりもう一度…」
「…ねぇ、今から……会いに行ってもいい?」
菜月が電話の向こうで、笑ってくれた気がした。