恋する少年少女【2】-6
「な…何?…あらたまって」
アタシは引きつった笑みを浮かべ、その言葉が彼の悪ふざけであることを願った。
だがアタシ達は冗談を言い合うような仲ではなかった。ましてやこの空気…アタシは下唇を軽く噛んだ。
「…オレ…お前がすごいと思った。好きって気持ちにあんな自信満々でさ…」
ふと思いかえる。アタシは何と言っただろうか…と。
『アタシが春日くんに惚れたのは、その一挙手一投足にひかれる何かがあったからだよ!顔とか…そんな簡単な理由で恋したわけじゃない』
アタシは言い放った台詞を今更になって照れ臭く感じ、ほおを少し赤く染めた。
「女なんか、化粧とか胸とか…なんつーか…ただ『女』ってだけで恋愛対象としてみてもらえてさ。ずりぃと思ってた」
春日くんは恥ずかしそうに自分の間違っていた固定観念を訂正した。
その言葉は春日くんの本心だった。たとえその言葉が、彼を『同性愛者』だと裏付けていても、アタシはすごく嬉しかった。
「すげぇと思ったからこそ…オレなんかに構わないでほしいんだよ。オレは…多分お前を好きになることはない…。でもお前真面目に恋愛してるからさ…」
そう言うと、嬉しさとショックで微妙な表情を浮かべるアタシを無視するように、春日くんは背を向けた。
そして校門に向かい歩きだす。その背中は大きくて広くて…しかしその後ろ姿には淋しさがあった。
「――春日くん!!」
アタシはまた春日くんを追い掛ける。カフェの時とは違う――今度は腕をつかみ強引にこちらを振り向かせ、彼の目を見てアタシは言った。
「春日くんだって真面目に好きなんでしょ!?自信持てばいいじゃない!気持ち押さえて…しかも誰にも言えなくて…それってすごく辛くない!?アタシが…――」
少し声を荒げてアタシが言うと、それ以上に強く、春日くんは切り返してきた。
それは
ぽろりと出た彼の悲痛な叫び
「自信なんかもてるわけねぇだろ!?オレは男でお前はおんッ――…」
そこで言葉を止めると、春日くんは苦虫を噛み潰したような表情をした。
「隠さなくていいよ…。アタシ偏見なんか持たないし、絶対誰にも言わない…だから、今だけでも素直に気持ち言っちゃいなよ?」
アタシは「どんとこい!」と胸を叩いた。
春日くんは地面を睨むようにつぶやいた。
「可能性がない…コトに…向かっていけるか!」
とうとう弱音を吐いた春日くんに、アタシはここぞとばかりに平手打ちを食らわせた。
別に武術をやっていたわけでも人並み以上に腕の筋肉が発達しているわけでもないので、たかがいち女の子に叩かれた程度では痛くないだろうが、驚いたのか…春日くんはバランスを崩しアタシを見上げるかたちとなった。
そしてアタシは言い放つ。
「何もしないで『実る可能性100%の恋』なんて、あるわけないじゃん!」
校庭には帰宅途中の生徒が数人居て、アタシの大きな声や殴られた春日くんに目をやっていた。
まわりを気にせずアタシは叫び続けた。