恋する少年少女【2】-5
残された春日くんは、動かなかった。
風が吹く
アタシの髪が制服とともに揺れる
髪の間から
春日くんの横顔が見えた。
黒くて大きな瞳が
綺麗で
吸い込まれそうだった。
「春日くん――!」
アタシは無意識に出た声に驚いて口を押さえた。
静かにたたずんでいた春日くんは、アタシの呼び掛けにゆっくりと――その無表情を崩すことなくこちらを見た。
春日くんは喋らない。瞳を少しだけ動かしアタシを見ると、またゆっくりと向き直った。
「…一人?」
先程から様子を見ていたなどとは言えず、アタシはさり気なく近寄る。
「…なんだよ…おまえか」
アタシがある程度近づくと春日くんの呟きが聞こえ、アタシはムッとした。
しかしその言葉に、いつもの刺々しさはなかった。
きっと春日くんが隣に居てほしいと思うのは、アタシじゃなくて夏目くんなんだ。
「夏目くんは…?一緒じゃないんだね」
わざとらしくならないよう、そっけない風に聞いたアタシはチラリと春日くんに目を向ける。
また風が吹く。
その風は、春日くんの短く薄茶色に染めた髪を揺らす。
哀愁漂う…
そんな言葉が浮かんだ。
「しらねぇよ…オレは別に、夏と四六時中一緒に居るわけじゃねぇし」
噛み締めるようにそう口にすると、しばらく春日くんは黙り込んだ。
神妙な空気に、アタシも下手に言葉を発せなかった。
ややあって…
春日くんがおもむろに口を開き、アタシに言い放った。
「…おまえ…オレなんか好きでいるのやめろ」
いつもの喧嘩腰ではなく、とても真剣に――その瞳に真っすぐアタシを映して言った。
だからアタシは
本気でショックを受けた。
一瞬世界が無音になったように感じた。