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君の名前
【純愛 恋愛小説】

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聖夜に降る雪-1

                   □□□□□

親愛なるテツへ。

なんて書き始めていいのか、とても迷いました。
でも必要なことなので書かなくちゃ。とても大切なことなので。
本来ならこういうことは自分の言葉で伝えなくちゃいけないということは分かっているんだけどね。やっぱり手紙にします。
正直、こうしてペンを握りながら不安でいっぱいです。私はあなたを愛していてテツも私を愛してくれている。それがわかるからこそ、これから書き綴ることはとても勇気がいります。でも書くよ。がんばって書くので、読んでね。お願いします。…なんていざ本題へ入ろうとするとペン先が震えちゃうわ。だからゆっくり書いていこうかと思います。
今だから言うけれど、私はテツと初めて会った時は、それほど、全然運命とか感じなかったの。いきなり何を言い出すんだ、とか怒るかもしれないけれど、本当のことよ。あなたとの出会いは、そう。当時私が住んでいたアパートの下にあるジュースの自販機でだったわね。私は空を見るのが大好きで、よく自販機の前の石段へ腰掛けていた。いつからか、テツがよくそこでジュースを買うようになっていたわね。いつもいつも、同じ時間にさ。ちょっと気まずい感じもあったけれど、もともとそこは自分の居場所だって勝手に思っていたからね、私も毎朝同じ場所にいた。約束もしていないのにお互い毎朝顔を合わせてね。なんだか複雑な気持ちになったのを今でも覚えているよ。
あれが、私達の始まりだったんだね。
                
                   □□□□□

仄暗い雲がびっしりと寒空を埋め、おおいかぶさるように頭上に広がっている。
吹き抜ける突風が、待ち合わせ場所に立っている僕の頬を撫でる度に、僕は全身に鳥肌を作りながら肩で震えた。
白い息が煙草の煙みたいに宙を浮かび、やがて溶けるようにゆっくりと消えていく。まるで街全体が巨大な冷蔵庫みたいだに辺りは冷気にすっぽりと包まれていた。
この分だと今朝の天気予報が言っていたとおり、今夜には雪が降るかもしれない。
もしそうなったら、ホワイトクリスマスだ。キリスト教信者でもないのに、その神聖な響きに胸が躍った。
特別な夜になればいい。
今夜が、今日という日が。
浮き立つ気持ちをおさえながら、僕は周囲に視線を巡らせた。約束は五時のはずだから、そろそろ彼女がきてもおかしくない。
彼女と出会ってすでに二年以上たつ。
思えば、幾度となくこうしてデートの待ち合わせをしたけれど、たいてい僕の方が先にきて彼女を待つというパターンが圧倒的に多い気がする。まあ、待つのは嫌いじゃないから、たいして苦にはならないのだが。こういう時くらい、もう少し早く現れてくれてもいいかな、とは思う。
若者が集うファッション系ビルの入り口ということもあって、人の数ははんぱじゃない。歩道にはまばゆいばかりの電飾が取り付けられ、まるで昼間のように辺りは明るく、入り口の柱にあるスピーカーからは、空気が震えるくらいがんがんクリスマスソングが流れている。
白いため息を吐き出しながら腕時計へ目を落とす。針は五時を回っていた。


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