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君の名前
【純愛 恋愛小説】

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聖夜に降る雪-3

                 □□□□□

あなたの卒業記念に、と行ったイタリアの晩餐。覚えてる?いわゆるカルツォーネディナーってやつかな。アコーディオンとか持ったかっぷくのいいおじさんたちが、陽気に音楽を鳴らしながら私達の食事を華やかにしてくれたよね。大好きな人との海外旅行。最高だった。私達、夜も眠らないで語り合ったよね。どうでもいい話から大切な話までジャンルなく話したね。いい夜だったよ。
抱き合うのも大切だけど、話をするのはもっと大切だと思ったよ。
その話の中でさ、結婚の話。出てきたよね。覚えているかな?
お互いの結婚観を語り合ったじゃない。
ああだ、こうだってさ。今になって考えたよ。思い出すだけでも恥かしい。どんなことを口走ってしまったかはあまり覚えてないけどね。でもとんでもないことたくさん言ったように感じます。でもそんな中、テツもまた私と同じようにお互いずっと一緒にいたいと思っていたことを再確認できて嬉しくもありました。同時にテツが子供好きということを始めて知った。
そんなに子供とか欲しがらないタイプかな、と思っていたからね。あなたが結婚したら早く子供が欲しい、とか、皆で一緒に遊園地とかで遊びたいなどと口にした時は正直驚きました。そうそう、そこで迷子になった我が子を懸命に捜してみたいなんて意味があまり分からないことも言っていたね。お酒のせいかな?
私はあなたより年上だから、時々結婚のことを考えます。あなたはどうかな?まだ若いからそれ程でもないかな?でもね、私は考えるの。眠る前、風邪を引いたとき、冷蔵庫を開けてビールなんかを取り出しているとき「ああ、こんなときにテツがいればなあ…」と思わずにはいられません。
だからといって結婚を迫っているわけじゃないのよ。ただね、ちょっとね。
考えるところがあるのよ。私も。

                 □□□□□

それからしばらくして僕は彼女に出会い、そしてその関係は今も続いている。
占い師が言っていた女性というのが彼女かどうかは分からないし、正直そんなことはどうでもいい。 不幸にする。
それもたいした問題じゃあない。タロットカードの中で占い師が何を見たかは知ら
ないが、それはその人の見解であって、僕が不幸か幸福かは僕自身が決めることだ。
彼女は、僕を不幸にする。
だから?
それがどうした。
今の僕なら、間違いなくそう言って占い師を笑い飛ばすだろう。
周囲の騒がしさに気が付き、僕は腕時計から目をあげた。けたたましい救急車の音が聞こえる。
一瞬、沸き上がる不安が背筋を凍らせた。若い女が車にはねられたらしいと言うやじ馬の声を耳にした瞬間、いてもたってもいられなくなり、僕も一緒に走りだそうとしたが、すぐに足を止めた。目の前に、彼女の姿があった。走ってきたのだろう。頬が赤く染まっている。
「お待たせ」
「待たせすぎ」
後ろで一本に束ねた髪の毛を揺らしながら、ごめん、と彼女は笑って言った。
「あ。ねえねえ」
歩きだそうとする僕を、彼女が呼び止めた。なんだよ。そう言いかけて口をつぐむ。真っ白いものが視界のど真ん中を通ってひらりと落ちた。
雪だ。
「きれい。天使の羽みたい」
空を仰ぎ、彼女ははしゃぎ声をあげた。
「そうだな」
紅潮する彼女の横顔を見ながら思う。僕は占いのことを、彼女には絶対に伝えないだろう。
あれは僕だけの秘密だ。
今はとても幸せで、僕にはそれがすべてなのだ。未来はその時になったら考える。
それでいい。


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