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十二月の午後
【青春 恋愛小説】

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十二月の午後-1

「雪が積もる前に、動物園にでも行かない?」
 この間の月曜日の夜。暖かい雨が降りしきる静かな時間に、電話の向こうの君に対してこう言った。

「うん、行こう行こう」
 君は戸惑い無く賛成してくれた。
 僕らは今、車で田舎の国道を東から西へと走っている。
 雪はまだ降らないけれど、吹く風がとても冷たくて冬の匂いを感じる。
 車の窓から見える田園風景は荒涼としていて、どこか異国の地へと旅している気分さえ感じるんだ。


「活発でよく動き回るサルと、のんびり餌を食べているキリン。前からずっと見たいなって思っていたんだ。自分はどっちなんだろうって考えたりしたんだけど、実際に見ればなにか感じるところがあるかなって思って」
「見てわかるかなあ?」
「どうだろうね」
 サルとキリンを見て答えを得ようなんて、冗談で思っただけなんだけれど、ちょっと面白いかもしれない。
 でも本当は君にも問いたかった。だけど、そんなことは照れてしまってとても言えそうには無い。
 二人一緒にあくびをしてしまうほど退屈な休日を過ごしても、君はいつも笑顔を見せるだけだった。

 平日、仕事終わりの君は、流行の恋愛小説を読んだり、映画のDVDを見たり、好きなお酒をちょこっと飲んだりしている。
 何事も楽しめないでいる僕にとっては、君の生活は毎日が愉快で明るく、軽快なテンポで進行しているように思えた。
 僕は君の刻むリズムの中に混ざりたかったけれど、どんな風に表現して君に伝えればいいのか、未だにわからない。

「うん、この子たちはどうかな?」
 猿山の前。君はいたずら好きの子供がするような笑顔で、僕の顔を覗き込んだ。
「なんとも言えないね。でも、似ていると言われると、ちょっと嬉しいかもしれない」 
 君は微笑んで、キリンのいる場所へと僕の腕を引っ張っていく。赤いコートの君と共に、閑散とした園内を行く。
「どう? 君に似てるかな?」
「……うーん、どこか羨ましい気持ちになる感じ。何故だかはわからないけれど」
 僕と君はまるで空に浮かぶ雲を眺めるかのように、二人で少しの間ぼうっとキリンを見ていた。
 
 僕らは園内のベンチに座って、君が作ってくれたサンドウィッチを食べた。
 冬の休日の動物園はさすがに肌寒くて、人の姿も少なかった。
「二人で貸し切ってるみたい。なんだか贅沢なお休みだね、今日は」
 周りを眺めて、君は笑いながら言った。君のその言葉はとても明快で嬉しくなるくらい軽やかで、僕は愉快な気分になる。こみ上げてくる嬉しさを隠せず君に向かって微笑んだ。
 君はうーんと言って伸びをして、小さくあくびをした。僕も少しうとうととし始めたので、ベンチの背もたれに寄りかかり、目を閉じた。
 そして少しだけ考えた。
 部屋にいたならば、僕と君はいつものように二人ともあくびをして、笑い合っていたことだろう。
 そうなんだ。
 サルでもキリンでも、どちらでもない。
 どこに行っても、どこにも行かなくても、僕は今日のような自分が、君と一緒の時の自分が本当の自分なんだろうと思う。
 そして、今日の君はいつもの君のままであって、それが本当の君なんだろうと思う。

「どうだった? サルとキリンを見てなにかわかったかな?」
 帰りの車の中、君はまるで答えを知っているかのように問いかけてくる。それはとても幸福で、素敵な質問だった。
「なんか、おかしいほど楽しかった。心からそう思うよ」

 君は僕の話しを熱心に聞いてくれて、いつも側にいてくれる。そして、何も無い僕の中の引き出しに素敵なことばかりをぎゅっと詰め込んでくれる。
 だから僕は君のことがとても好きなんだ。


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