恋心粋〜開花〜-3
最悪だ。
5年前の最初からずっと、恐れを知らない仁忍。
警戒する弥花の心に、ずかずかと土足で入り込んでからかう。
常に癪で…、だけど放っといてくれない。
それが免疫になったのか…男嫌いで強張った肌が、人懐っこい仁忍によって綻んでゆく。
(もっと抵抗できたはずなのに…)
あの強さ・甘さ、激しさ・優しさ、逞しさ・温かさのバランスに…油断したのだ。
(余計なことをして…!)
熾る花芯を、指で弄んでも鎮まらない。
熱く固く太く奥へ奥へ、鎮めてほしい。
何度も何度も、あの日を反芻する。
記憶の中の仁忍の全部を舌でなぞってみる。
闇に独り、仁忍の名前を声でなぞってみる……。
京都―――。
仁忍は映画村でのドラマ撮影の傍ら、南座で舞台をも務めていた。
3ヵ月に1回あるかないかの能と違って、歌舞伎は1ヵ月に約25日分の舞台がある。
そんなハードスケジュールの中、仁忍はひとり常宿の和室で台本を手に横臥していた。
舞台は昨日で全日程を消化済。撮影は午前で済ませたため、明日まではのんびり。
その背後で忍び寄る影。
―――どんっ!
「ぅおわあぁぁっ!??」
脳味噌が抜け落ちそうなほどの衝撃に、飛び上がる仁忍。
腹立たしく振り向けば、戸口には思いがけない人物。
「弥花!?」
そんな不様さに、大爆笑する弥花。
「何だよ〜、吃驚させんな!折角、覚えた台詞がパァじゃねぇかっ!」
床を鳴らす能のクセに気が抜けたのか、仁忍は大の字で不貞腐れる。
「ごめんね、久しぶりね」
我関せずと笑う弥花。
「………3ヵ月遅せぇんだよ、馬〜〜鹿」
「何、その言い草?」
むっとする弥花に構わず、仁忍は続ける。
「ふん。亜蓮は?台詞合わせに来るって…」
「お兄ちゃんなら来ないよ。私のために口実合わせてくれたの」
ちらっと視線を向ける仁忍。
「……鍵、締めたか?」
その意図に気付いた弥花は、淫らな期待に心音が乱れ始める。
「締めたよ…」
仁忍は、にやりと笑いながら兵児帯を解いた。
墨色の単着物の合わせ目からはだけた…それは、恥じらいもなく勃っていた。
「あっ……」
思わず唾を飲み込む弥花。
瞼が震え、あ○こがきゅんきゅんと啾く。