恋心粋〜開花〜-2
「あ、それから」
亜蓮は史郎を見やって言葉を続ける。
「…キスシーンもあるけど、いいよな?」
「誰と?」
俄然興味を抱いてきた母・ほのかに、亜蓮はにやりともったいぶる。
「………仁忍と」
「えぇえええ〜〜!?」
素っ頓狂に叫ぶ弥花。
「巴をやるんだよ、俺…」
「ふっ、おっほほほほほ」
呆れて言葉もない代わりに、ほのかが楽しげに笑う。史郎に至っては苦笑だ。
襲名したばかりの仁忍は、歌舞伎でも忙しい。撮影スケジュール短縮のために、馬に乗れて薙刃も弓矢も扱える亜蓮をヒロインとして推したのだ。
男性ながらも女性的な顔立ち。能『巴』や流鏑馬経験者の姿形に、一目で製作側総出が大快諾。
…話題性になるからだ。
(よくもまぁ……でも、仁忍らしいな)
昔から楽しいことが大好きな奴なのだ。昨日のことは置いといて、弥花は思わず笑みが零れた。
仁忍の義仲と亜蓮の巴…、まさにぴったりすぎる。
男は嫌い。
だけど、SEXには興味がある。
12歳の時、私は初潮を迎えた。
生理痛で重たい腹とナプキンの違和感に、眠れなかった夜中――…。
ふと聞こえてきた声。
それは、冴え渡る私の鼓膜に歪と響いた。
家族しかいないはずの家に、誰の声だろう…。
断続的に止まない行方が気になって、部屋を出て階段を降りる。
すると、私は見たのだ。
ガラス戸の向こうに、母のあられもない姿を……。
縁側で仰臥した股の間に、男の頭が埋まっている。
長襦袢は乱れ、ふくよかに揺れる胸。あえかに喘ぐ声音。
生理で敏感になったせいか…その光景は思いの外、私を陶酔させた。
ああ、それはきっと…春闇が魅せた幻想。明日になれば醒めてしまうだろう。
しかし、股の間に流れる血が治まっても、疼きは治まらなかった。
毎晩、閉じた瞼に浮かぶのはあの夜艶。あの恍惚。
そして、ついに…。
禁断の木の実と知りながらも、募りゆく自分をおそるおそる探る。
「あっ…」
―――それ以来、私はいけない手を覚えた…。
「んっ…はぁ、…っ…っんん、…っい…っ…ひっ!」
夜ベッドに入ると、独り慰めずにはいられない。
仁忍とは、あれから2ヵ月。
一度SEXを知ったこの身体は治まるどころか、ますます高ぶるばかり。
欲しくて欲しくて気が狂いそうだ。
(あの馬鹿!!!)
能稽古にも身が入らない。集中力を欠く弥花に、祖父から怒声の毎日。
そんな自分が悔しくて、仁忍を呪う。呪いながらも…求めてしまう。