『聖なる日にあなたの全てを』-1
「今年のクリスマスこそ!」
「男つくるぞー、ってか。」
姉に先を言われて、あたしは詰まった。
ふ…っ、と煙草の煙を吐きながら、6つ上の姉は笑った。
煙草を持つ姉のその左手の薬指に光る物を見て、改めてあたしは幸せになる。
そして、あたしもいつか…と思うのが、あたしの近頃の癖だ。
「でもさ、もう12月入っちゃったけど。」
「イヴまであと23日もあるじゃん。」
「ずいぶんお気楽な事。」
「だって好きな人いるし。イヴまでに告白すりゃいいんだもん。」
「直球タイプね。一個外したらもう球無いんじゃない?」
「うん、だからそうなったら、クリスマスはお姉ちゃんち行っていい?」
「旦那には失恋話愚痴んないでよ。」
「はいはーい。」
〜12月1日〜
実家に寄りに来た姉とそんな話をしたあと、あたしはバイトに出かける。
普段外出する時より丁寧にメイクして、コンビニに入る。
そう、あたしの好きな人は、このバイト先にいるのだ。
「あ、悠子ちゃんおはよう。」
「おはよう、北沢くん。」
彼は、北沢久志。大学は違うけれど、あたしと同じ4年生で。
上背があって、細身で、くせのない顔立ちで。
穏やかな笑顔を見せてくれるけど、何考えてんのかわからない。
でも、絶対にいい人だと、その事だけは分かっている。
誰もやりたがらないような面倒くさい仕事を自ら進んでやるし、もたつくあたしの事も、よく手伝ってくれる。
「ありがとう」って言っても、さらりと「ううん。」と返してきて、素っ気ないくらいにまた自分の仕事に戻っていく。
そんな人。
あたしは最初から、そんな彼に惹かれていた。
もっと知りたい、もっと喋りたい。あたしはそう思うのに、彼は常に、他人と距離を置いているような人だった。
そう。あたしと北沢君は、ただバイトで一緒というだけの関係で、それ以上でもそれ以下でもない。