『聖なる日にあなたの全てを』-5
夜になり、街は妙な静けさに包まれていた。
明日は、イブ。
「北沢くんお疲れー。」
あたしは、明日までに彼に告白しようなんて気には、もうなれなかった。
彼にはきっと、まだあたしに見せていない所がある。
あたしには、そんな彼を受け止められるほどの力があるだろうか。
「お疲れ。悠子ちゃん明日も…来るんだったよね?」
「うん。」
「そっか。…おやすみ。」
〜12月24日〜
あたしは、彼が好きだ。
その気持ちは変わらない。
でも、どうしようもない微妙な距離が、彼との間で消えていない。
人を近づけさせない何かを、彼は持っているから。
夜。
イブの夜に、あたしと彼は人気のないコンビニに二人きり。
「送ってくよ。」
そう言われて、二人で公園の側を歩いていた時、ふと会話が途切れた。
自販機で温かいレモンティーをあたしにもおごってくれた後、彼が自販機に寄り掛かった。
レモンティーを一口飲んだあと、彼はおもむろに、口を開いた。
「…俺が生まれてすぐに、父親が出て行ったんだ。」
レモンティーを飲もうとして固まってしまったあたしを見つめながら、彼は続ける。
「俺はね、……母親からの虐待を受けてたんだ。…12歳で、母親が死ぬまで。それからは俺、叔母さんちで暮らしてる。」
…あたしは、返す言葉なんて無かった。
彼を見れなくて、公園の木に掛かったライトを見つめていた。
そうしながらあたしの中で、心に引っ掛かっていた何かがやっと外れた気がしていた。
どうしよう。
どうしたら、この彼の告白に…この唐突で深い告白に、あたしは……
「…もう、悠子ちゃんには隠しようがないから。」
「え……。」
「俺の近くに長い間いるとね…いろいろ見えてきちゃっただろ。」
やっと彼の顔を見上げた時に見えたその顔は、ひどく寒そうで優しくて、綺麗だった。