『聖なる日にあなたの全てを』-4
〜12月23日〜
あたしは迷っている。
…何に?
彼は相変わらず優しい。
だからこそ、あたしは迷う。
本当の北沢久志を、あたしはまだまだ知らないんじゃないかと、今更そう思って。
そしてまたしても、あたしはこの日、本当の彼を垣間見る。
店内の天井から吊されたクリスマスの飾りの星が、暖房の風でクルクルと回っていた、夕方。
「わかった、買って帰るから。」
彼は、携帯のバイブ音と共に倉庫に引っ込み、通話をしていた。
「…あ、待って!おばちゃん、あのさ…」
客の少ないコンビニに、彼の声が響く。
と、外の冷気を連れて一組の親子が入って来た。
5、6歳の女の子が、母親の後を追って泣いている。
彼の電話はいつの間にか終わっていて、あたしの隣のレジに立っていた。
「だから今日はお菓子ダメだからね!」
「やだ、何でダメなのぉ…っ!」
「ダメなものはダメなの!今日は悪い子だったからダメ。」
女の子の泣き声は益々大きくなるばかりで、あたしは
「安いの1個くらい買ってあげればいいのにね。」
と隣の彼に呟いた。
「…うん。」
「買ってよ〜っ!1個、1個でいいから…っ。」
お母さんもだいぶ苛々している様子で、客が自分達しかいないのをいい事に、だんだん大きな声で怒り始める。
…ふと、隣の彼を見た。
何だか、妙な予感がしたのだ。
彼は俯き、レジに置かれたその手は…僅かに震えていた。
…あたしはどこかで、こんな彼を見た。
そう、迷子で泣きじゃくりながら入って来た子の時も、彼の様子はどこかおかしかった。
「北沢く…」
「ごめん。寒くなってきたからちょっと…なんか着てくるわ。」
あたしの呼び掛けから逃げるように、彼はロッカーへ下がってしまった。