『聖なる日にあなたの全てを』-3
〜12月20日〜
街はますますクリスマス一色に染まり、北沢くんは相変わらず、いつものように優しかった。
バイトの最中で会話が多くなり、前よりずっと、彼が近くに感じられていた。
そんな日だった。
「どうしてよ?!」
コンビニ裏の駐車場から、甲高い女の人の声が聞こえてくる。
客のいない店内。
クリスマスソングと共に、ただその声が聞こえてくる。
あたしの立つレジからはよく姿が見えなくて、倉庫に入ってみる。
「わざわざクリスマス前に、そんな事言わなくてもいいでしょ?!」
声がすぐ近くに聞こえ、あたしは外に通じる倉庫の扉の隙間から、そっと覗こうとした。
その時。
「あたし言ったじゃない、クリスマスは誰かと過ごしたいんだって!言ったわよね?!」
「誰かって事は、俺じゃなくたっていいって事だろ。」
あたしの耳は、確かに彼の声を聞き取ったのだ。
冷たく、突き放したようなその声は、紛れも無く、北沢くんのものだった。
「な…誰もそんな事言ってないじゃない!」
「まぁ…、2日間をどっちの彼氏と過ごそうと、それはお前の自由だったわけだけど。」
「……!!」
「少なくとも俺は、お前に選んでもらいたいとも思ってなかったよ。」
「……。」
「二兎追う者一兎をも得ずってことわざくらいは知ってるよな?もう片方のあの男に、俺の事見られてる可能性あるし。気を付けたら。」
「…いつから…。」
「12月に入った日、見た。まぁたいした女だと思ったよ。」
…あたしは、こんな北沢くんを初めて見ていた。
金に近い派手なパーマのかかった茶髪をくゆらせて、女の子は早足で歩いて行った。
『君らも2日間は無理か。』
『いえ、俺は大丈夫ですよ。』
あの時そう答えていた彼は、彼女がいないわけじゃなかったのだ。
…それにしても淡々としていて、とても彼女に二股かけられていると知ったその日とは思えなかった。
倉庫の扉の隙間から見える北沢くんは、煙草の煙を吐いた。
冷える倉庫で、あたしはどうしていいかわからなくて、とりあえず静かに店内へ戻った。