『聖なる日にあなたの全てを』-2
「てんちょぉ〜。イヴとクリスマスはあたしダメなんで!」
あたしの前の時間に入っていた、高校生らしき女の子が大きな声でそう言いながら、コンビニを出て行く。
店長は短いため息をつくと、あたしと北沢君に目をやって言った。
「で?君らも2日間は無理か。」
あたしは詰まる。あぁ哀しい…、ここで首を振る自分の、なんて哀れな事か。
「いえ、俺は大丈夫ですよ。」
でも、隣にいた北沢君のこの一言であたしは一気に天へと舞い上がる。
「あたしも!大丈夫です。」
店長は「あー良かった。」と漏らして、倉庫に戻る。
嬉しかった。
クリスマスは、彼も空いてるんだ。
24も25も、一緒にいられるかも知れないんだ。
〜12月11日〜
午後3時。
今日も、寒い。
コンビニに入っている暖房が、眠気を誘う。
クリスマスの2日間は店員がかなり減るらしく、店長は連日「疲れた」を連発していた。
暇になった時間帯、あたしと北沢君だけが、レジに居た。
倉庫にいる店長がダンボールの整理をする、ゴソゴソという音が聞こえてくるなか、その静寂は破られる。
自動ドアから勢いよく入って来たのは、4、5歳の男の子。
寒さからか頬を真っ赤にして、目に涙をいっぱい溜めて、鳴咽を繰り返している。
よく聞き取れないけれど、「マ」を繰り返し言っていた。
「一人?ママいないの?迷子になっちゃったの?」
あたしの問い掛けに力強く何回も頷く。
「どうしよう、北沢くん。この近くに交番あったっけ…。」
「……。」
「…北沢くん?」
彼はその男の子をぼーっと見つめたまま、少しの間固まっていた。
あたしの呼び掛けに、やっと現実に帰ってきたように、北沢くんは
「今地図持ってくるよ。」
と言って倉庫へと引っ込んでしまった。
男の子がお母さんに会えた時も、北沢くんはただぼーっとその再会の様子を見つめ、まるでその光景から逃れるかのようにくるっと踵を返し、それからは無言になった。