星が降る夜-1
20XX年12月24日PM6:00
僕等はまだ生きていた。
イヴの夜、神様は残酷なプレゼントを僕等にくれる。
そう、もうすぐ星が墜ちて来る。
今日は地球最後の一日。
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前時代の格差社会の名残は未だに消えず、世界は貧富の差にあふれていた。
近付く彗星衝突から逃れるために、各国政府は宇宙船の建造を急ピッチで進めた。
新しい時代の『ノアの方舟』である。
しかし『方舟』に乗る為にはチケットを入手しなければならない。
その資格を有するものは、各国の要人、特殊技能を持つ者。
つまり、世界でも限られた一握りの人々だ。
それらの人々にチケットが行き渡ると、次に行われたのは、残りの全人類の選別だ。
最後の審判。
選ばれる者。
選ばれざる者。
チケットを手にすることが出来ない哀れな人々は等しく死を受け入れなくてはならない。
新興宗教の教祖が幾人も現れ人々に救いを説いた。
ある者は自ら死を選び、
ある者は神に祈った。
ある者は無為に過ごし、
ある者は愛する者に愛を伝えた。
昨日までは、遥か彼方にあった死が、今全ての人々の目前に迫っていた。
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『もう、あの人の元に帰ったら?船の時間は大丈夫なの?』
テムズ河に面したカフェでクレアは、アンドロイドのユダに静かに声を掛けた。
『私は船には乗りません。あの方にもそう申し上げました。貴女のそばにいてはいけないでしょうか?』
『ねぇ、ユダ。星なんか堕ちてこなくても私の体は病に侵されていて、未来はないのよ。そんな女に付き合うことはないわ。あなたには永遠の命があるのでしょう?あの人があなたの為に用意したチケットを無駄にしてはいけないわ。早くお行きなさい』
クレアの言葉には迷いはなかった。
昨日まであった薬指の指輪は既に外されいる。
『そうですね。貴重なチケットを無駄にしてはいけない。では、あの犬を船に乗せてあげましょう』
ユダはカフェにいた老婦人の連れていた子犬を指差した。
クレアは呆れたというように一瞬目を見開いて、静かに溜め息をついた。
『主人はこうなることを想像していたのかしら。あなたにユダなんて名前をつけたんですものね』
夕陽が煌めく川面を背にして僅かに微笑むクレアをユダは見つめた。