聖夜-1
いつのまにかマフラーが手放せない時期になった。
色付き栄えていた木々の葉も寒さが嫌になり暖かな地面に落ちる。
冬の空気は澄み渡り空の青があたしに近づく。近ごろさらに早くなった夜では月と星空が謳歌する。
街は聖夜が近づくにつれ装いを変える。白の人形は赤い服を着る。もみの木は色とりどりの電飾を巻く。
街行く人は皆どこか浮ついて。鈴の歌が街中をかけていた。
『聖夜』
あたし小岩井彩夏。平凡な生活ながらも毎日楽しく過ごしている高校二年生。
もう二年生に進学した春から半年以上経過した。あたしには、今好きな人がいる。いつからその人のことを思っていたのだろう。
友達の千鶴や、後輩の奈津美ちゃんの言葉がきっかけでその想いに気付いたのはつい最近のこと。でも、本当は彼女に初めて会った時から、恋に落ちていた。
彼女?そう、あたしが好きになってしまったのは、女の子。可愛く、優しくて、お茶目な彼女。
そんな彼女にあたしの気持ちを告白したい。
今日は週末。クリスマスまで秒読み段階となった街は急がしそうにどこもかしこも装飾で彩られる。
いつもならあたしは部活で週末も過ごす事になってしまうけれど、今日は部活は休み。
あたしは涼子ちゃんが行ってみたいと言っていた新しい雑貨店を見たりすることになった。
でも、あたしにとって今日はもっと重要な意味を持つと思う。そう、あたしは今日涼子ちゃんに告白します。たとえどんな結果だとしても、言わないで後悔するよりも、言ったほうが絶対にいい。
あたしは待ち合わせ場所になっていた駅前に向かう。いつもは遅刻魔のあたしも、今日ばかりは絶対に遅刻はしまいと目覚まし時計を二つも用意していた。
彼女との初めての出会いが遅刻しそうと思って走り込んだバスの中だったっけ。そんな回想に耽りながら歩き続ける。
休日の駅構内は学生から家族ずれ間でさまざまな人があたしとすれ違っていく。さまざまな人々はさまざまな思惑を抱えて歩く。
あたしの隣を駆け抜けていた人。休日返上をしてまで働いているのだろうか。
あたしの正面から歩いている家族連れ。はしゃぎ回る子供たちを苦笑しながら追い掛け回す両親たち。それでも、家族で過ごす休日に幸せを感じているはずだ。
そんな人間観察をしていたあたしの内心はそう穏やかなものじゃない。緊張しているのだと思う。
高校入試の合格発表の瞬間。一年生の時のあたしが初めて大会に出場することになった前日。それらとはまた違う。胸の中が切なく、苦しい。でも、どこかで穏やかでやけに煩い鼓動も心地よく感じている。
歩く速さは速すぎず遅すぎず、確実にあたしを待つ彼女へと近付けていった。
あたしが駅前のロータリーへと出ると、反対側の出口からやってきた人影を見つける。
『涼子、ちゃん?』
あたしは真面目に天使だと思った。初めて会ったときも、今も。
白を基調とした彼女の服装も、彼女自身も本当に綺麗で、あたしのさっきまで止まることのなかった足あとが初めて止まる。
『おはよう、彩夏さん。ちょうど一緒だね。でも、彩夏さんにしてはずいぶん念が入っているのね』
『えっ?』
『だって、いつもは遅刻ぎりぎりじゃない。なのに今日は予定時間よりも早く着いているもの。』
『あっあたしはいつもだって遅刻ばっかりじゃないわよ』
確かに今日は涼子ちゃんと待ち合わせだからって、念を入れていた。それを当の本人に何だか見透かされているみたいで、あたしは風で乱れた髪を整えるふりをする。
『ごめん。ごめん。じゃあ、外は冷えるし、すぐお店に案内するね。』
そのまま涼子ちゃんに連れられあたしは歩きだした。