淫魔戦記 未緒&直人 2-8
「なあ、頼むよ藤谷……一度だけでいいんだ」
「その一度もいやっ!」
護は出入口に陣取る。
出入口からあまり離れると、新聞部に見つかってしまう。
一気に襲いかかってこられない距離を保ちながら、渋い顔をした未緒は護と対峙する。
「……どうかしてる」
吐き捨てるように未緒が言うと、護は自虐的な笑みを浮かべた。
「自分でもそう思う……ただもう一度、あんたをよがり狂わせたくてたまらない。ただそれだけなんだ」
「私はごめんよ!どいて!怪我しても、知らないわよ!」
その威嚇をハッタリだと思ったのかとにかく抱きすくめてものにしてしまえば抵抗もしなくなると思ったのか、護は未緒に襲いかかってきた!
「どいてって言ったのに……」
未緒は呟き、伸ばされた腕を掴んだ。
ギリッ
ミシッ
護の骨が軋む。
「ぐっ!?」
「素直にどいてくれないなら、腕を折るわよ!二度と使えなくなるまで、粉々にね!」
精一杯の調子で、未緒は叫んだ。
淫魔は、悪魔としては低い位にいる。
それでも、力は人間より遥かに強い。
そのハーフである未緒も、その気になれば人間の骨を楽にへし折るくらいの握力は備えていた。
「ぐっ!ううっ!」
さすがに、骨を折られるのは割に合わないと判断したらしい。
「わっ、分かった!」
骨がミシミシと軋む音に紛れて、護はかすれた声で言った。
その声を聞くや否や、未緒は手を離して屋上から逃げ出した。
「っ痛う……!」
ヒビは入っていないようだが、護は思わず声を上げていた。
「っくしょう……藤、谷……!」
無事な片腕を壁に叩き付けながら、護は呻いた。
「情けないこと」
何の前触れもなくあさっての方向から聞こえてきた声に、護はぎょっとする。
「惚れた女の一人も奪えないでいるの?」
「誰だ!?」
「取引しない?お互いに、損のない取引を……」
声は質問に答えず、ただ自分の要求を告げる。
「藤谷未緒を抱きたいのでしょう?穴という穴を可愛がって、イカせたいのでしょう?」
「どこにいる!?」
「私は、神保直人だけが欲しいの。女はいらないわ。藤谷未緒は、あなたの好きにすればいい……」
声の主は、物影から現れた。
「お前は……!?」
「機会は私があげる。直人様が見ている前で、藤谷未緒を犯してやりなさい」