誓って…-1
時は中世ヨーロッパ…領主が農民を支配していた時代。
とある領邦では、かなりの圧政で農民を苦しめた場所があった。
農民が必死に働いて収穫した作物を殆んど税として持っていかれ、日々辛うじて生きていけるか、と言うほどの作物しか与えられない。
更に、農民の血税で領主は贅沢三昧の日々を送り、挙句の果てには無駄に大きな城を建設し、若い者は皆其所で下僕として働かされてしまっていた。
しかし、農民は耐え続けた。…その後継者となるだろうまだ幼い領主の息子に希望を託して…
それは今の領主がこの地方を支配して18年も経ったある日の事だった。
領主の息子(名をヴィンセントと言う)は16歳となっていた。そして、領主は別として、農民の望む通りの少年へ成長していた。
領主の圧政は相変わらずながら、今まで奴隷の如く扱われていた城の下僕達は彼によって密かに食事も待遇も改善され、その家族へも様々な贈り物をしていた。
折しもその年は大凶作で、税を納められない者も少なく無かったが、ヴィンセントの巧みな外交と機転により、処刑者は一人も出さなかった。
但し、それでも防げなかったのが、若者の大量下僕化、そして飢饉だった。
ヴィンセントはほぼ全ての家族(推定400家) に対して謝罪の手紙を送った…が、この飢饉により、絶えた家、逃げた家も多かったのだろう、届いたのは四分の一に過ぎなかった。
彼は日々嘆いた。「私に勇気と才知と力があったならば、父を止め、民を救えたかも知れないのに…」と。
そんな中で彼は一人の少女と出会った。
マリア…酷い扱いを受けていた下僕の一人だった。
彼女は飢饉で両親を無くし、城では殆んど食事を与えられず、衰弱すれば鞭をうけ、彼が気付かなければ確実に死んでいたかもしれなかった少女だ。
透き通る肌、すらりとした足、漆黒の艶やかな髪、綺麗な顔立ち…外見でもかなりの美人だが、発見した時はかなりやつれ、目は虚ろで…彼は深い自責の念に刈られた。
話をしていくうち、彼は彼女に恋心を抱く様になっていった。
それは外見ではなく、彼女の心に…だ。
そして、その思いは日に日に強まっていく。だが、どうしても一線を越える事が出来なかった。
そう、自分の犯した罪(実際には父の罪だが)を引きずって、とても自分の気持ちなど伝えられなかったのだった。
少女もまた命の恩人であり、優しい心の持ち主ヴィンセントに恋していた。
確かに彼は人一倍カッコいいと言うことも有るのだが、彼女をいたわってくれる彼の心使い、民を救おうとする彼の姿勢に心打たれた。
…そして、更に二年後、遂に領主は病に伏し、なくなった。領主の葬儀には息子以外誰も立ち会わなかった。
城にいた下僕はほぼ全員逃げ出した。
そして、飢饉の時に逃げ出していた農民と結託し、『打倒領主会』をまとめ始めた。
ヴィンセントは死を覚悟した。
城に残っていたのは、父の側近でありながら、ヴィンセントを支え続けてくれたランカスターだけの様だった。
「ランカスター…今まで本当にお世話になった。君が居なければ、私は何も出来なかったし、こうして生きていることも無かっただろう。」
「何を仰せになられるのです、殿下。まだ貴方様は生きて為さねばならないことがありますよ。」
「…そうだな、私は開城して、素直に捕まるつもりだ。」
「開城!?貴方様には何の罪も無い。よい政治を行えば、自然に反対組織も収まりましょうに…」
「…残念だが、私の罪は何物にも変えられない。死をもってしても…だ。父の息子であるのみでなく、私には民を救えなかった。共犯者なんだよ。…だから、我が身を持ってこの悪政に終止符を射つ。…だから、私は此所で待つよ。然るべき時をね。…君には申し訳無いが…逃げて生き延びて欲しい。」
「そんな…そんなことなど出来は…」
「これは、私の…命令だ。私から彼等にはちゃんと説明しておくから…」
「…はい。最後に、城の見回りだけ…」
「ああ、よろしく頼むよ。」