誓って…-3
「……今、私に構わないでくれ。」
ヴィンセントはマリアに背を向けると奥へと歩いていった。
「ヴィンセント様!!…ヴィンセント〜!!!!」
ランカスターに連れられて彼女は遠ざかって行く。その間、マリアは必死に叫んでいた。
…ヴィンセントは歩くのを止めた。その下には小さな水溜まりが出来ていく。
「…すまない…すまないっ…マリア…私は…更に大きな罪を…」
彼は絶望し、その場へと屈み込んでしまった。
…それから数時間後、農民達は開門された城内へ入った。
其処には既にヴィンセントが立っていた。
「…私は…覚悟出来ている。貴殿方の望みは?我が首か?それともこの領地か?」
農民の中からは長老らしい老人が前に出てきた。そして、重い口を開いた。
「我々が望むのは平和、ただそれだけじゃ。」
「平和の為、わたしは何をすれば良い?私は忌まわしき先代の領主の血が流れている。…同じ弱さがある。この罪深き私を如何にすると仰せなのか。」
もう彼に残されたものは何もない、在るのは絶望のみだ…そう思っていた。彼は民の前にひざまずき、頭を下げた。自ら死を請うように…
だが長老は微笑み、彼の前に手を差し延べた。
「貴方は民を救ってきたお方だ。それに我々に耳を傾けて下さった。確かに圧政はあった。だが、貴方がいたから我々は生きているのですぞ。貴方に反逆しようとした者達も貴方の恩は忘れていなかった。何より我等が待ち続けた次の領主じゃ。期待以上の救いをしてくれたそなたを、我々は誰も恨んではおらん。」
「しかし…」
「それに…何よりも我々の為にもじゃが、それよりも…のう。」
長老は後ろを振り返る。
大衆の中から現れた人…それは紛れもなく…
「マリア!?」
ヴィンセントは思わず、目を疑った。
マリアもランカスターも平然と農民達と溶けこみ、問題もなく現れたのだから。
「お前さんが償うべき罪は…彼女を守ってやらねばならぬことでは無いかな?」それだけ言うと、長老は大衆の中へと戻っていった。
「マリア…」
彼はうつ向いていたが、彼女に目を合わせると、一心に頭を下げた。
「すまない…マリア。私は…君に深い悲しみを与えてしまった。」彼は気まずそうながらも彼女に近付こうとする…と次の瞬間、いきなりマリアが抱きついてきた。
「…もう…離さないで…もう…寂しい思いは嫌です。」
彼は胸元で泣く彼女の頭を撫で、そして、彼女の顔に手を添えて此方を向かせ、彼女を引き寄せ…
チュッ…
それは一瞬だった。それでも彼女は彼の唇の温もりをはっきりと感じとっていた…
「マリア…もう君を悲しませたりなんかしない。決して。…マリア…好きだ。私と共に…歩んで行かないか?」
「…ずっと夢見ていました。何時かこうして結ばれる日を…私は貴方様から離れません。…永遠の約束ですよ。」
「ああ、誓って…」
そして、また二人は口づけを交わす。
…そして、彼は民へと振り返ると、大声で叫んだ。
「今、此処に誓う!!この領邦を何処よりも住みやすく、皆の為の領邦とする為に…民の為に我が命をかけることを、皆に…そして愛する我が妃の為に誓う!!」
民は歓喜し、マリアは顔を赤らめ頷いた。
その後、マリアとヴィンセントは結婚した。挙式には領邦の農民達全員が駆け付け、城内で祝福された。
以後彼の治めた領邦は、民の意見をの聞き、領主直営地を解散して農民達に与え、領主の土地は大幅に削られた。城は常に開放し、家を立てられない者は城内に住まわせた。民の心を掴んだこの地は暫くの間繁栄していったと言う…