誓って…-2
フロアに響く足音。音が遠ざかると、彼は何とも言えない虚無感に支配された。
最後に…もう一度だけ、マリアに会いたかった…その心が、彼の頬に伝った。
「マリア…すまない…私は、君に何も言えなかった…」
彼はテーブルに腕を乗せ、顔を伏せ、ぐったりと蹲った。
彼の部屋の空気は寒々として…最早、生きる事を忘れたかのように…
と、暫くして突如足音が此方に向かってきた。
走る音…しかも、一人ではなく、二人のようだ…
「まさか!?」
ヴィンセントは即座に立ち上がり、部屋から抜け出すと、足音の聞こえる方へと、全力で走っていった。
―この出来事から数分前―
マリアはとても悲しそうに城内を歩いていた。彼女が持つものは殆んどない。ヴィンセントが与えてくれた暖かいコートと白いシンプルなドレスだけが入った鞄のみ…しかしマリアにとっては大切な品だ。
城内は閑散として、かつての賑やかさは全くない。
「ヴィンセント様…貴方はもう逃げてしまわれたでしょうか…。」
逃げた下僕からは、ヴィンセントも反領主側の標的になると聞かされていた為、彼も聞いていれば、既にこの城から出ただろうと思っていた。
「…もう一度だけ…もう一度だけで良いから、ヴィンセント様…貴方に会いたい…」
二人の心は同じ…
―会いたい…そして思いを告げたい―
コツ…コツ…
マリアは耳を疑った。この城にまだ人がいたのか、と。足音へとむかうと其処にはランカスターがいた。
「マリアさん!?何故此処に!?」
「それは此方が聞きたい位です。…もしや、ヴィンセント様はまだいらっしゃるのですか!?」
「えぇ、おりますよ。…しかし…」
ランカスターは先程までの経緯を話した。…ランカスターには彼と彼女がお互いに引かれ合っていることに気付いていた。
「…そんな。」
「殿下は一人で責任を負われるつもりです。『私』には最早止められません。」
「ランカスターさん…お願いがあります。」「…殿下にお会いしたい…でしょう?案内致します。」
「…ありがとう。急ぎましょう。」
…………マリアは急ぐ。一刻も早く最愛の人の元へと向かうために…
…玄関ホール、多くの部屋にリンクした広い広間に3つの足音が…いや最早二人だけの足音が近付いていく。
「マリアッ!!」
「ヴィンセント様!!」
二人はホールの真ん中で抱き合った。二人の心を寄せあうかの様に…
「マリア…最後に…会えて良かった。」
「最後だなんて言わないで。…貴方が居なければ、私は…生きていけない…」
マリアの瞳からは涙が溢れ、ヴィンセントの肩を濡らす。…暫くして彼は、彼女を離して目を合わせると、哀愁の目で彼女に語りかけた。とても穏やかに。
「頼みがある。これは…私の我儘かも知れない。だが、君には生きて欲しい。君には生きて幸せになってもらいたい。…私は君の側にいるにはあまりに大きすぎる罪を背負ってしまった。君を…苦しませたくない。色々考えた結果、私は君とは…離れることに決めた。だからランカスターと共に逃げてくれ。」
「どうして…どうしてそんなことを言うのですか!?…本当に私の幸せを考えて言ったつもりですか!?私は…」
彼は振り返りランカスターへ視線を移す。
「…ランカスター、最後の仕事だ。彼女を護衛しつつ、此処から逃げてくれ。」
「待って!!…また言いたい事が…」
マリアはヴィンセントの手を掴もうとした。でも、彼女の手は虚しく空を切る。