刃に心《第9話・紅き月夜》-8
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「疲れたぁ…」
疾風がベッドの上で独りごちた。
「全くだ」
その独り言に合いの手が入る。
「………」
「宿題も無事に終わったし、私は寝るぞ疾風。電気消しても良いか?」
「…本当に此所で寝るつもり?」
疾風は身体を起こし、ベッドの下に視線を向けた。
「言ったであろう。その…多少は…怖いのだと…」
そこには布団が敷かれ、パジャマ姿の楓が半身をそこに入れていた。
「なあ…霞の部屋…」
「霞は…今日に限って真っ暗な部屋でホラー映画を見ておった…」
「母さんの…」
「そこまで世話になる訳にはいかぬ」
「男女七歳にして席を同じうせずと言いまして…」
「頼む!今日だけ!今日だけだから!」
「いや…その…俺も男なわけでして…」
「頼むッ!」
楓は両手を顔の前で合わせ、拝むように疾風に頭を下げた。
「…分かったよ…」
不承不承、仕方なくといった様子。だが、やはり年頃なのでちょっとドキドキなんかもしている。
「あ、ありがとう疾風♪」
「じゃあ、電気消すから…」
別に変なことするわけじゃないんだし…と心の中で付け足し、疾風は電気を消して横になった。
「…疾風…」
暗闇の中で楓が問いかけた。
「どうした?」
「…私を守ってくれてありがとう…」
「別に礼なんかいいよ。楓にはいろんなことで助けられてるし」
「疾風…」
「何?」
「そちらに行っても…」
「流石にそれはダメ」
そんなに自分の理性が堅いものではないと自覚している。
「…冗談だ…」
少々、残念そうに楓は言った。ただ、疾風はその響きに気付かなかったが…
「…おやすみ」
「ああ…おやすみ」
疾風は眠る寸前、今日の出来事こそが幻ではなかったのか、とぼんやりとした頭で思った。
だが、アレは紛れもない現実で、あの化け猫も陰陽師も、そして楓が自分の為に流した涙も現実のものであると訴えていた。
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───ピッ。
「って、これで終わりぃ?何よ、こんなこともあろうかと兄貴の部屋に隠しカメラを仕掛けておいたのにぃ!甲斐性無し!根性無し!意気地無し!
折角、私が兄貴と楓ねえさんのあんなところやこんなところを期待して、後で編集してネットで売りさばこうと思ってたのにぃ!バカヤロー!!」
続く…