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刃に心
【コメディ 恋愛小説】

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刃に心《第9話・紅き月夜》-4

◆◇◆◇◆◇◆◇

「何なのだアレは!何なのだアレは!何なのだアレは!何なのだアレはぁあああ!?」
「知るか!知るか!知るか!知るかぁあああ!…うわッ!?」
「ど、どうしたのだ!?」
「追っかけて来た…」

楓は走りながら振り返った。ゆっくりとした動きだが、女は二人の後を追いかけ、確実にその距離を縮めていた。

「ッ!!」

思わず目尻に涙を溜めながら、速度を上げる楓。
角を曲がった。その先には教室と廊下があり、少し行けば階段があり、その階段を降りたところ付近の窓から出られるはずだった。

「な、何だ…これは…」

教室と廊下はあった。けれどその廊下が異様に長い。感覚的にそう感じるのではない。実際に長いのだ。いや、長くなっていた。廊下の終わりが見えないほど長く…

「は、疾風…」

楓が普段からは考えられないほど情けない声を出した。

「こ、この学校はこんなに広かったのか…?」
「い、いや…」

疾風たちの通うこの日ノ土高校は他の高校と比べてかなりの敷地面積を持つ私立高校で、購買が三ヵ所、学食が二ヵ所あり、体育館も二つもある出鱈目に広い学校だったが、流石に廊下の終わりが見えないほど出鱈目ではない。

「うわッ…来た!」

背後から女が迫る。
長髪は垂れ下がり、目許は見えない。その中でパックリと割れた三日月状の口が異様なほど紅い。
再び走り出しながら疾風は服に手を入れ、中から苦無を取り出した。
右足を軸に回転し、女に投げつけた。
女は避けることなく苦無を迎え撃った。
苦無が頭を穿つ。
女の身体が霧散して消えた。

「楓!教室へ!」

理由は分からないが、廊下の先が見えない以上、走って体力を失うよりは教室に一時避難した方がマシだと考えたからである。
楓も震えながら首肯し、近くの教室に入った。
疾風も飛び込むようにして教室内へ。

◆◇◆◇◆◇◆◇

「はぁ…はぁ…」
「な、何…なのだ…はぁ…アレは?」
「し、知るかぁ…」

窓際にもたれ、呼吸を整える。だが、荒い呼吸はなかなかもとには戻らない。
疾風は懐を探った。残りの装備は苦無が二本。

───にゃぁ…

「はぁ…はぁ…えっ?」

疾風は顔をあげた。教室の入口付近に先程の消えた黒猫がいた。

───にゃぁああ。

───ズルリ…

黒猫が一声鳴いた。その途端、窓や壁を突き抜け幾つもの青白い腕が二人を襲う。

「ひっ…ひぃやあああああああああああ!?」
「うおわっ!?くっ…」

青白い腕は乱暴に肌を引っ掻く。有り得ない現象なのに触れられている感触があった。


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