刃に心《第9話・紅き月夜》-3
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ほんの数分で教室に着いた。薄暗い月明かりは仄かに紅く、疾風は少しばかり気味悪く感じた。
「あ、あったぁ♪」
自分の机を覗き込んだ楓が嬉しそうに声をあげた。
「さ、帰るぞ疾風♪」
用事が済み、楓はこの空間から一刻も早く立ち去りたいらしい。
行きと同じく、疾風の腕にしがみつく。
教室を出て、闇に支配された廊下を進む。
───にゃぁ…
「楓…聞こえた?」
「猫か?」
二人は足を止め、後ろを振り返った。見れば暗闇と同じ色をした猫が二人をじっと見つめている。
「どうしてこんな所に猫が?」
「大方、迷い込んだのであろう。ほら、私たちと一緒に出よう。な♪」
楓が手を伸ばした。指先を軽く動かし誘っている。だが、猫はぷいっと身体を翻すと闇の中へと駆けていった。
「あっ!こら!待たぬか!」
「楓!」
楓が猫の後を追い、その後を疾風も追いかける。
猫が廊下の角を曲がった。楓と疾風も数秒遅れでその後に続く。
「なっ…」
角を曲がった楓が驚きの表情を作った。
疾風もその横で楓と同じような顔を製作。
角の先は校舎と校舎を繋ぐ真っ直ぐに伸びる廊下。
その為、教室などの部屋は無く、猫が隠れる場所など無いのだが…
「…ど、何処に行ったのだ?」
猫の姿が何処にも見当たらない。あたかも闇に溶けたように消え去っていた。
「化かされたかな…」
疾風がそう言うと、隣りで楓がビクッとなった。
「な、何を言っておるのだ疾風は…こ、このような時代によ、妖怪など…」
「それを言ったら忍と侍も一緒だろ」
「だ、だがな…ゆ、幽霊などの類いを私は…」
スゥー…と二人の視線の先を白い何かが通った。
「「………」」
目を擦る二人。
そしてもう一度目を開けた。何もない。
「は、早く帰ろうではないか…」
「そ、そう…」
疾風がそうだなと言いかけたところで再び二人は硬直した。
視線の先から白い何かがこちらに向かって来ている。段々ハッキリとしてくる白い何か。
それは白いワンピースのような服を着た女だった。
いや、女は女でも普通の人間ではない。普通の人間はふわりふわりと注を滑るように移動しない。
「「………」」
どちらからともなく二人は顔を見合わせ、そして…
「「ッ!!」」
全速力でもと来た道を走っていった。