刃に心《第9話・紅き月夜》-2
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「ほら、行くよ」
「あ、あぁ…わ、分かっておる…」
門を易々と乗り越えた二人。だが、ここに来て楓の顔色があまり良くない。
「や、やはり…あ、明日にせぬか?」
「何言ってんの?明日の朝に提出だろ?」
「だ、だがな…その…開いておる所など…」
「確か、東校舎の窓の鍵は壊れてるから、そこから入れる」
「ひっく…疾風は私のことなど…」
「二度目は通じない」
「うっ…」
朧直伝の女の秘密道具も通じなくなり、楓は仕方なく足を進めた。
窓はやはり壊れており、侵入は容易だった。
夜の学校は昼間の喧騒が嘘のように黙り込んでいる。
「教室に置いてきたんだな、って楓大丈夫か?」
楓の顔色はさらに悪くなり、足も微かだが震えている。
「な、何でもない!決して、もののけの類いが怖いとか苦手とか、そういう訳では無い!」
楓のびっくりするほど大きな声が静かな校舎をエコーがかって通り抜ける。
「……幽霊とか苦手なんだ…」
数秒後、疾風がポツリと漏らした。
「なっ、ち、違うと言っておろう!」
楓が慌てて反論。
「じゃあ、その震えは?」
「こ、これは…武者震いだ!」
「じゃあ、ずっと握って離さない腰の物は?」
「か、刀は武士の魂!決して、怖いから持ってきた訳では無いぞ!変に解釈するでない!」
「君は此所に何しに来たの?誰かと勝負しに来たの?」
「こ、この私が恐れているとでも?」
言えば言うほど、自らの弱みをさらけ出していく楓。
「まあ…行こう」
ちょっと不憫に思って、疾風は教室へと向かおうとした。その右腕に楓の両腕が絡み付く。
「あ、あの〜楓?」
不意打ち気味にドキリと心臓が脈打つ。
「ち、違うぞ!私はただ…疾風がその…怖いと思ってだな…」
「…はいはい…」
「ふ、ふふっ…は、疾風…腕が震えおるぞ…」
それは貴女が震えてるからですよ、と言いたくなったが、どうせ否定さらるので疾風は大人しくそういうことにしておいた。