【魔術師】の戦いと受難 いち 〈上〉-2
ヒュッ
触ったら霜焼程度じゃ済まないぐらいの冷気を纏った氷柱が俺に向かって放たれた。
「あっ、危ねぇ〜って、鼻先かすったぁ〜っ!おっお前何すんだよっ!危うく鼻が凍傷になるところだっただろっ!」
と、冷たくなった鼻を摩り氷柱を放った張本人の方を見ると。
「『まぁ良いや』って何よ!!せっかく勇気出していったのにぃ。『まぁ良いか』って!!もう、もう知らない!」
と言って教室を飛び出していった。俺を殴り飛ばしながら。
「いってぇ〜〜〜っ!!一体何なんだぁ?さっぱり分かんねぇよ。」
「「「「分かれよっ、気付けよ!!!」」」」
教室に残っていたヤツラ全員の合唱だった。
「分かれって、何が?」
マジでそう聞く俺に、
「「「「・・・・はぁ、・・・」」」」
返事はまたも合唱で帰ってきた。
「・・・うんじゃ、待たせるのも悪いしさっさと行くか。」
俺はそんなヤツラをほっといて【魔法科】の校舎へ行くことにした。
「ちわぁ〜ッス。愛流ですけどいますかぁ?」
そう言いながら俺は【魔法科】の校舎の美袋先生用の準備室のドアをあけた。・・・が
「・・・・・いねぇし、」
そこには誰も居なかった。確認するようにもう一度準備室を見渡したが誰もいな・・・・・居た。部屋の隅にポンチョの様な服を着た女の子が座っていた。可憐な感じだけど全体の雰囲気は影が薄いつーか儚げな印象だ。
「よう、居たのかヨミハ。元気かぁ?」
そう挨拶する俺にその子は「ボクは、・・・・何時でも・・げん・・・き。」
と、消えそうな声で返事した。
「そ、そうか。そうだったな、なんたって【魔導書】だもんな。」
そう、今言った通りヨミハは【魔導書】なんだ。・・・正確には【魔導書】が魂を持って仮の肉体を持った書の【精】ってものらしい。さっき【魔術師】は才能を極めたヤツのことっていったが実はそれだけじゃ無い。【魔導書】に認められてやっと一人前ってことになる。
その【魔導書】の中でも人の姿をとれるほどのシロモノはごく希で、ヨミハが【精】である〈エミグレ文書〉はとても力のある書らしい。
「なぁヨミハ、美袋さんって居ないの?」
俺は、そう尋ねるとヨミハは少しこっちを向き
「蓮、・・・もうすぐ・・来る。だから、待っ・・てて。」って言った。俺としてはさっさと帰りたかったんだが『すぐに来る』って言ったからには待っていることにした。ちなみに【蓮】って言うのは美袋さんの事だ。
・・・五分後。
「ヤッホ〜ッ。ヨミハちゃんたたいまぁ〜。・・・・・あれ?なんで顎くんがここにいるの?」
ゥオイッ!!テメエが呼んだんだろうが!
「あぁ、私が呼んだんだったわね。ごめんなさぁい。(ニッコリ)」
こんな台詞でやって来たのはこの準備室の主【美袋蓮】先生だ。ちなみに読み方は【みなぎ れん】だ。
この学校の【魔法科】の教師にして【魔導書】〈エミグレ文書〉持ち主、正真正銘の【魔術師】だ。長い黒髪が似合う一見大和撫子な感じのとても綺麗な人だ。性格はおしとやかで結構、・・・・・いや、かなり気さくな感じだ。そのせいか【魔法科】、【普通科】の生徒教師問わず人気がある。
その美袋さんの後ろからひょこりと一人の女子が出てきた。