想いの行方U-1
「矢田先輩かっこいい〜!」
「でもさー矢田先輩、彼女いるよね」
「え、嘘!誰っ?!」
「知らない?西野先輩って……あ、ほら。あの人!」
こんな風に見知らぬ子たちから指をさされるのにはもう慣れた。
でも、矢田の彼女として名前が売れるのはやっぱり不本意。
西野 心(ニシノ ココロ)
矢田 潤平(ヤダ ジュンペイ)
私たちが付き合ってからもうすぐ四ヶ月。
私たちの噂が広まっても相変わらず矢田は人気者で、昼休みに校庭でサッカーをするとギャラリーから黄色い声が飛ぶ。
寒い冬の廊下をお気に入りのマフラーを巻いて悠々と歩く。
かじかむ手を口元に当てながら、ふと窓の外に目をやる。
無邪気な笑顔を振りまいてボールを追いかける矢田。つい、ぼーっと眺めていると、矢田は一人離れてこちらに走って来た。
開けろと言わんばかりに窓をこつく。
「やっぱり心だ」
「よく分かったね」
「マフラーで分かった」
矢田がクリスマスプレゼントにくれた茶色とベージュのマフラー。
別に矢田がくれたからお気に入りってわけじゃないけど…。
「なぁ〜今日まじで無理?」
「無理って何回も言ってるじゃん」
「ちぇ〜ッ」
小さい子みたいにスネた顔をする。まったく…そんなの反則だよ。
「あっちぃ!ちょっとこれ持っといて」
「はいはい」
サッカーで額に汗を光らせる矢田は学ランを脱ぎ私に手渡す。
「あ、ポケットの中見んなよ!」
そう言って、矢田はまた校庭へ駆け出して行った。
見るなと言われて見ない人間はいない。
すかさず学ランのポケットの中をあさる。すると、何か小さい箱のような物が手に当たった。