淫魔戦記 未緒&直人-9
−未緒と直人がセックスするのは未緒自身が言った通りに淫魔としての自分を抑制し、人間としての自分を保つためだ。
常に中出ししているのは、直人自身の特殊性に依る。
開祖の魂を身に宿す直人は全身が……唾や汗などの分泌物なども含めて全てが、いわば強力な光の属性を持っている。
中でも精液は次代への魂を育てる極めて重要な役目を負っているだけに、その力がずば抜けて強いのだ。
つまり、精液を使って未緒自身が持つ淫魔という闇の属性を抑制しているのである。
中出しされても妊娠しないのは、未緒が淫魔としての力を使い、それをキャンセルしているせいだ。
遺伝子レベルで人間と淫魔とが溶け合っている未緒はどんなに強く力を抑制しても、それくらいはこなせるのである。
封印と抑制とは違うものであり、どんなに忌まわしく感じてもそれは未緒にとって不可分のものなので、もしも淫魔としての未緒を封印すれば、それは未緒自身の存在を否定する事になる。
存在を否定するという事は、未緒がこの世界から消えてしまうという事だ。
そんな事を直人はとうてい承認できなかったし、未緒自身も人と淫魔の狭間で生きる事を選んだ。
だから二人は時々逢瀬を重ね、未緒の力を抑制してきたのだ。
「おとといくらいかな……占いをしてみた」
説明しながら未緒の腰に手をやり、動きを助ける。
「未来は動くものだから僕があまり占いを好まないのは、知ってるね?けど、あの時はやった方がいい気がしてしょうがなくてね」
「予知……の一種ですか……ん、はうんっ!」
未緒が声を上げ、背筋をのけ反らせた。
剥き出しの白い喉にキスしてから、直人は続ける。
「そうしたら……中尾氏の依頼をこなす時、前々から僕の体を狙っていた低級霊の塊に、体を乗っ取られるだろうという暗示が出た」
直人は気まずそうに告げる。
「考えに考えた。でも、僕は……それを止めるために、未緒。君が忌んで抑制したがっている力を、使う事しか思い付けなかったんだ」
「……!」
未緒が腰の動きを止めた。
「何と非難されても、仕方のない所業だな」
「……いいんです」
しばらくして、未緒は首を横に振った。
「あれを止められるのはたぶん、私だけでしたから……」
直にあれと対峙しただけに、並の人間では震え上がってしまうであろうあれの強さがよく分かる。
神保家当主として一度受けてしまった依頼を断るのも、未緒のためだけに使用人を犠牲にはできないと判断を下したのであろう事も。
だから、未緒は……。
「未緒……」
直人は目を伏せた。
「許して、くれるのか……」
「許すも許さないも、ありません」
未緒は直人の唇を奪った。
「……!」
未緒の方からキスしてくれるなんて初めての事で、直人は驚くと同時に感動を味わった。
「いつも抱きたくもない女を相手に、こんな事をしてもらって……」
「ちょっと待った」
直人が厳しい声で未緒を止める。
「誰が抱きたくもない女を抱いてるって?」
「だって私は……四つも年上ですし……」
予想外の反応にうろたえる未緒に、直人は告げる。
「あのね……僕は抱きたくもない女をボランティアで抱けるほど便利にはできてないよ」
「え?」
口走った後で、直人は激しい後悔の念に襲われた。
未緒の人生を……先々の事を考えて、よほどはっきりと未緒の気持ちを確認しない限りは自分の想いを胸に秘めておこうと決心していたのに。