■LOVE PHANTOM■六章■-3
「二人で暮らすことにしたの」
幸子はレモンティーを吹き出した。
「けはっごほっ・・!えっ!二人ってあんた、叶?」
叶の名前を聞くと、再び靜里の顔色が赤に変わった。
「・・・」
口を開かず、静かに頷く。幸子は口をぱくぱくと動かしながら、必死に何かを言おうとしている、が、声が出てこない。
「今日から一緒に住むの。だからこのこと、一応、幸子にも話しておこうと思って」
「あ・・あんた」
幸子がかすれた声で言う。
「おとなしいと思ったら・・・今度はそんな大胆な」
「本当は叶が来てから話そうと思ったんだけど、でもそれだと幸子が緊張するかもしれないから、先に話しちゃった」
靜里は舌の先をひょこっと出しながら小さく笑った。
「・・・ちょっと待ってよ。叶が来てからって、あいつ来るの?」
「うん」
「ここに?」
「うん」
「いつ・・・?」
会話を続けていくにしたがい、しだいに幸子の声は小さくかすれて行くのが分かる。
靜里は自分の腕時計を見ると、
「そろそろかな」
うれしそうに笑った。
「帰る!」
その言葉を聞くなり幸子は、腰を上げ、レジへと走りこんだ。
「幸子待ってよ。今日は私のおごりだよ」
それを必死になって止める靜里。
「やだ、あいつ苦手なのよ。今日は私が払うから明日おごって」
「もうちょっと、お願い」
「いやだ!」
幸子は靜里の手を振りほどき、あたふたと財布から札を取り出し、マスターへ手渡す。それを受け取ったマスターは、靜里の方へちらりと目をやった。すると靜里は瞳を潤ませながら、小刻みに首を振る。
「マスタァァー」
息を荒気ながら幸子がせかす。
マスターは二人を見ながらどうも出来ずに苦笑した。
そうして二人が、なんだかんだやっていると、入り口の向こうで、振り出した雪を払っているような音が聞こえた。靜里は待っていましたという風に、そちらへ目をやり、幸子はまさか・・というような顔で恐る恐る、靜里と同じ方を見る。
ゆっくりとドアが開き、取り付けられている鈴の音が、カランッと店内に響いた。