ココロ、何となく想い-1
他に誰も居ない病室の中で、俺は外をみていた。
ふと、庭にある時計が目に入る。
もうすぐ8時……来る。
コンコンッ…
「遡君、入るわよ。」
扉の開く音と共に、俺の心拍数は波を打つように激しく脈打つ。
「あ、あぁ…。」
そう返事すると、女は微笑む。
いつもと変わらない、やりとり。
それが俺の心を掻き立てる。
(俺…明日……)
「検温の時間だよ、遡君」
薄く紅付いた唇の端を少し上げて、瀬里奈は言った。
準備が済む前に、俺は体を起こす。
「なぁ瀬里奈…」
「中原サン、でしょ?」
「なぁ中原サン…」
俺がそう言うと、瀬里奈はふふっ、と笑って聞いてきた。
「何かな?遡君。」
「あのな、俺…」
明日…ここを出るんだ……。
「俺…何よ?」
そう言いながら、俺を壁に寄りかからせる。
甘い、女の匂いが鼻を擽る。
「いや…何でもない。」
言えない。やっぱ、苦しい。
「ふふっ、何よ、変な子だなあ。よいしょっ…と。」
今目の前に、瀬里奈の胸にある名前のプレート。
自分の首に絡まる、細い腕……
俺は、華奢な瀬里奈の体を抱き締めた。
「さ、遡君……?!」
慌てて離れようと、俺の肩に手を置く。
そのまま、更に強く抱く。
「ちょっ…どうしたの?」
頬に当たる、柔い感触……
「瀬里奈……」
好きなんだ………
「ちょっ、遡!中原サンでしょっ!」
そういう問題じゃないでしょ。
おどけて言ってみせてるけど、声が強ばってるのが分かる。