アッチでコッチでどっちのめぐみクン-60
……………
「シープ様ぁ、やっと見つけましたよ」
少々疲れた顔をしたフローレンスが、城内の廊下をシープに向かって駆け寄る。
「……何の用よ?」
「……用なんてありませんけど……ただ、今日はずっと姿を見かけませんでしたので、ちょっと心配になって」
「何心配になることがあるのよ?」
「だって、昨晩はシープ様、例の作戦を開始なされたはずでしょう?」
「……それが?」
「シープ様、事がうまく運んだ時は、私に紅茶を作るよう頼まれるじゃないですか」
「……そうだったかしら?」
「そうですよ。シープ様の習慣というか癖というか……それが、今朝は紅茶を頼むどころか、全然私の部屋に来ませんし……もしかして、何かあったのかと」
フローレンスの指摘に、シープのこめかみにピクピクと血管が浮き出る。
「別に……何もないわよ」
「……失敗……したんですか?」
図星を指されて一気にシープの顔に血の気が上った。
「うるさいわね! 単なるデータ不足よ!」
「や、やっぱり……で、でもデータ不足って?」
怒鳴り出したシープに、フローレンスは後ずさりしながらも聞いてくる。
「向こうの人間に……あの薬大して効力なかったのよ……それだけの話よ」
シープはとにかく落ち着こうと、再び怒鳴りたくなるのを必死で抑え込んで答えた。
「……シープ様は非力ですものね……薬が効かないとなると苦しいですね」
「……非力で悪かったわね」
「なんなら私が格闘術を教えましょうか? そこいらの相手には勝てるようになりますよ」
「今から? 私がそんなのマスターする頃には、メグミって子はそこそこの術者になってるわよ。真っ向勝負じゃ勝てないわ」
「術者? メグミさんは術を使えるのですか?」
フローレンスが驚きの表情をして聞き返す。
「今は大したことないわ。けど、将来はわからないわよ。たった数時間の練習で火球を出すことに成功してたから」
「……シープ様、練習に立ち会ってたんですか?」
「……成り行きよ、成り行き」
シープはなぜそうなったのかは言いたくないとばかりに適当な返答をする。当然、フローレンスにはどうしてなのか理解することはできなかった。
「はぁ……よくわかりませんが……」
「とにかく、作戦を練り直す必要があるわ。例えば……」
「例えば?」
「あなたが格闘術であの二人を押さえ込むとか」
「……術を使える相手なら、私だって返り討ちにされてしまいますが……」
フローレンスがおそるおそる首を横に振る。
「今夜なら、まだ大したことないかもしれないじゃない」
「でも、ほんの数時間で火球を出すことに成功したって、さっき言ってたじゃないですか。それってすごい才能ですよ。もしかして今頃は、1〜2メートルあるような火球作りに成功してるかも……」
「……だから、まずはあなただけで行って、返り討ちにされなければ、後から私が行って……」
「そんなの嫌です」
フローレンスは、いよいよ危険な話になってきたのを感じて、今度はきっぱりと断る。