ｱｯﾁでｺｯﾁでどっちのめぐみｸﾝ-59
「どうしました？」
「いやな、朝早くにガスツヘルムが部屋に来てな、シープが私と別れることを自分と約束したとか言ってきたんだ」
「ふふふっ、彼は相変わらず自分の娘をたぶらかしたシープのことがお嫌いのようですね。たぶん、彼がシープに王子と別れるように言ったんでしょう。シープと王子が親密になるのを彼は好ましく思ってなかったようですからね」
王子の憤怒の理由を知って、ジョーカルはそういうことかというように薄く笑みを浮かべる。
「やはりそうか……まったく、にわか国王のくせに調子にのりすぎだとは思わんか？」
「そうお気になさることはありますまい。彼は王の姿をしているというだけの操り人形なのですから」
「操り人形なら操り人形らしく、余計なことに口出しするのはやめてほしいものだな」
「多少の口出しなど、知らぬふりをしていればよいのですよ。彼にはシープの良さがまるで理解できないようですから」
「おっ、ジョーカルにはわかるんだな、シープの魅力が」
王子が嬉しそうにジョーカルの方へ身を乗り出す。しかしジョーカルの方は王子とは対称的に淡々とシープについて話し出す。
「私と王子では、彼女のどこに着目してるかはまるで違うと思いますが……とにかく、王子が彼女を掌中に収めておくことに私は賛成です。彼女はやや性格に問題がありますが、あの知識の豊富さは実に貴重です。王子の花嫁にはふさわしくありませんが、彼女との関係は保ち続けるべきでしょう」
「……よくわからないが……ガスツヘルムの言うことは無視して構わんということだな？」
「はい。まぁ、彼にも自分がどういう存在なのか、いずれわかってきますよ……さて、我々もそろそろ行きますか」
ジョーカルは、そう言って椅子から立ち上がるとさっき兵士が出ていった扉の方へと歩き出す。
「あぁ」
それを見て、王子がその後に続いた。