アッチでコッチでどっちのめぐみクン-55
「……ジョーカル様からそういう風に説明されたの?」
「どういう風にですか?」
「だから、そこは城の中に造られた洞窟だって」
「はい、そうです。でもまさか、城内に洞窟を造られて、ずっとそこで生活していたなんて……しかも、その洞窟の入り口は普段は全く見えないんですよ。術法を使わないと出現しないんです。ジョーカル様が術を使って私達にもわかるようになりましたが、さすがは最高の術者と言われたお二人です。あれでは今まで誰にも見つからなくて当然ですよ」
ディグとルーシーの意外な行方に感動しているロキシーの横で、フローレンスは、ジョーカルに騙されてるわよ、とロキシーに言おうか言うまいか悩んでいた。
「それでですねぇ。ジョーカル様が、ディグ様とルーシー様を強引な手口で洞窟の外の世界へと連れ戻してきたんですよ。その方法がですね、なんとお二人の性別を逆転させて、戻りたければ洞窟から出てきなさいという、お二方もさすがですがジョーカル様もまたさすがと思わせる奇想天外な方法なんです。私っ、やっぱり術士ってすごいなぁと思いましたっ」
「……それは確かにすごいわね。で、三人はあなたの目の前では会話をしなかったの?」
「……してましたけど、よく意味がわかんなかったもので後からジョーカル様に聞いたところ、そういうことだったんだそうです。さすが最高の実力を持った術士同士の会話です。私に理解できるような内容じゃありませんでした」
フローレンスはジョーカルの嘘をものの見事に信じこんでいるロキシーを見て、真実を告げるのを断念する。
一応自分自身の目で見聞きしたことだ、その場にいなかった者がジョーカルに騙されていると言っても、信じてはもらえないだろう。
「ですから、もう大丈夫です」
「え? 何が大丈夫なの?」
「ですから、ナクティフの反撃ですよ。あの、ディグ様とルーシー様が戻られたんですよ。それを知ったらナクティフがいくら優秀な術士育成に成功したとしても、そう簡単にはアリーランドに攻めてくることなんてできませんよ」
「そう……かもね」
「そうですよ。だから、しばらくの間はナクティフを恐れることも無いんじゃないでしょうか」
「そうね……そう言ってナクティフに先制攻撃を仕掛けようとする考える人達を説得することができるかも……」
「……でも、戦力的に大きなアドバンテージがある今のうちにナクティフを叩こうという考え方もあるんじゃないでしょうか? 特にマイルホーク将軍なんかは術士を大変恐れていますからね。以前はガスツヘルム将軍と同様に早い段階でのナクティフ潰しを王様に進言していましたよ」
「お父様と同様……」
「え、あ、す、すいませんっ」
言葉に詰まるフローレンスに、ロキシーが慌てて謝る。
「……別にいいの、気にしないで。それで、あなた自身はどう思うの?」
「……どうって?」
「戦争に突入することが、本当に最善の道だと思う?」
「……わかりません」
「わからないの?」
「はい」
「……じゃあ、あなた個人としてはどうなの? 戦争になることを願ってる?」
「……それも……」
「……わからない?」
「……はい。戦争で活躍することができれば英雄になれます。私だって、術士がほとんど育っていない今のナクティフ相手なら充分活躍できる自信があります。私は英雄に、それも術士でなることに憧れて……けどいろいろあって剣士になってますが……もしここで戦争が起これば、念願の英雄への道が多少なりとも開けます。でも……」
胸のところで拳を握って力説していたロキシーの表情が突然曇る。
「でも?」
「……正直戦争になるのは恐い気持ちもするんです。私には実戦経験が……本当に人間を斬った経験が、全くありませんから……」
「……私は、そんなもの、無いに越したことはないと思うわ」
「でも、兵士にとって経験は重要です」
「その経験がいったい何を生み出せると言うの? ……まあいいわ。私の父だって先制攻撃を主張していたんですもの、父の部下だったあなたに娘の私が反対の主張を押し付けるのも変だわね……」
「……すいません」
「謝らないで。お父様やあなたと、私の考え方が違っているってだけの話なんだから」
「……はい」