アッチでコッチでどっちのめぐみクン-52
「……なるほどねぇ。ところで、評判だったってことは、結局村一番の器量良しにはなれなかったのかい?」
サイファがかなり失礼な質問を考え無しにした。
しかし老婆は特に気を悪くした様子もなく、よどみなく質問に答える。
「まぁのぉ、孫は数年前からお城に勤めてて、最近は出世したとかで村にはたまにしか帰って来れませんのじゃ」
「この子、今はお城に勤めてるのかい? そりゃ大したもんだ。で、何の仕事をしてるんだ? メイドかい?」
「それがのぉ……二十年ほど前のナクティフとの戦争で大活躍したディグとルーシー、あの二人の英雄譚を数年前に事故死した両親に聞かされて育ったせいか、術士に大変憧れてましてのぉ……」
突然、自分達の名前が出てきて、サイファの後方で老婆の話を聞いていたディグとルーシーがどきりとする。
サイファはにやにやしながら話の先を促した。
「じゃあ、この子は今、術士としてお城で働いているのかい?」
「いやぁ、結局術士にはなれなかったみてぇですけども、国中に名を響かせるような英雄にだけは、どうしてもなりたかったらしくて、剣術を習い始めたとかで……」
「それじゃあ、剣士になったのかい?」
「へぇ。そっちの才能はかなりあったらしくて、トントン拍子に出世したそうでのぉ。しかも増えた稼ぎの分を仕送りしてくれるおかげで、うちの宿屋はこんなに立派な建物になりましたのじゃ」
「あぁ、それで……小さな村の割に随分立派な宿屋が建ってるなと思ったよ。孝行なお孫さんだね」
「本当に婆思いのいい子でなぁ」
「しかも見た目も可愛い女性剣士か……会ってみたいもんだな」
「だったら、ここに留まるのをやめて、俺達についてくるか? 城に行けば会えるぞ」
後ろからディグがサイファに話しかける。サイファは即座に首を横に振った。
「……お客さん方、お城に向かいなさるんで?」
老婆がディグ達に聞いてくる。老婆に視線を顔に向けられて、ディグとルーシーは一瞬ドキッとするが、老婆の様子に特に変化は見られない。どうやら、ディグとルーシーの名前は知ってても、顔までは知らないようだ。
自分達がディグとルーシーだということをわかってなさそうだと知ると、二人はなんとなくホッとして積極的に会話に加わる。
「あぁ、こいつだけここに置いてって、この後すぐにな」
「宿代は私達が先に払っておきますから」
「一週間分ぐらい払っておいてくれよ」
ルーシーが取り出した金貨の袋を見て、サイファがそう言い出した。
「はぁ? お前ここに一週間も居つくつもりか?」
「いいだろ。どうせ、ジョーカルあたりから路金として金貨をたくさん貰ったんだろ? だったら一週間ぐらいの宿代なんか楽勝で払えるはずだろ」
「……まぁ、そうだが」
「じゃあそうしてくれよ。俺はしばらくのんびりしたいんだ。あんなとこにずっと押し込められていたんだからな」
「……仕方ないな、わかったよ。どうせ俺達にはこのくらいの距離の往復じゃ、お金の使い途なんてそんなになかったんだ。残り全部、お前にやるよ」
「おい、いいのか? お前らも戻ってきたばかりでこっちの世界じゃ無一文のはずだろ」
「俺達だけならここから城までほんの数時間だ。路金なんてもう必要ないよ」
「……そうか、悪いな」
サイファが、目の前に出された金貨の袋をルーシーから受け取る。