アッチでコッチでどっちのめぐみクン-42
……………
その頃シープは、力の限り抵抗してくる葵に思いのほか手こずっていた。
飲ませた薬が完全ではないとはいえ効いててふらふらの葵だったが、それでもシープの攻撃から身を守れるだけの体力差がもともとあったのだ。
「し、しぶといわねぇ……いい加減諦めたらどう? 薬が効いて、ふ、ふらふらのくせに」
「あ、あんたこそ、息があがってきてるじゃない。あ、あたしとあんたじゃ、鍛え方が違うのよっ!」
「こ、こんな剛力女と知ってたら、ロープを、用意して、し、縛りつけとくんだったわ……」
シープが肩で息をしながら、自分の見通しの甘さを悔やむ。
一方、二人の激しい闘いが続く傍らで、めぐみは、依然薬が効いたまま全裸で転がっていた。
「……葵ちゃん、強い……」
めぐみは、ドレスを半分脱がされた格好でシープに抵抗を続ける葵を見ながら、現在の自分の情けない姿に落ち込みそうになる。
……せめて、葵ちゃんの手助けくらいできないかな……
めぐみは気を取り直して、なんとか力が抜けてしまっている体を動かそうともがきだした。
「このっ!!」
シープが、葵の体を床に押し倒そうと飛びかかる。
「くっ!!」
葵はなんとか半身でシープの突進をかわすと、空振りして横向きになったシープの体を、そのまま突き倒す。
「きゃあっ!?」
シープの軽い体はあっけなく床の上に転がされた。
「えへへぇ、少しずつ力が戻ってきたかな?」
葵がまだ少しふらつきながらもシープを見下ろし、得意そうに笑みを浮かべる。
「……この筋肉女ぁ……まだ、勝負はついてないわよ!」
シープは、相当悔しいのか、かなりよれよれになりながらもまだ葵を下から睨みつけてくる。
「そうかしら? もう結果は見えてきたと思うけど」
「ふん、私をなめないでよね!」
シープはそう言うと、じりじりと葵の隙をうかがう。
……とにかく、床に転がして背後をとれれば、後は私のテクニックで力を抜かせることができるはず……
シープは葵の背後に回り込むべく、葵の周囲をゆっくりと回りながら、飛び込むタイミングを計る。
葵は、シープが背後や側面から飛びかかろうとしているのを察知して、シープの動きに合わせて、体の向きを変えていく。
二人の間に、張り詰めた空気が流れていた。
その時、葵に大きな隙ができた。
葵は一瞬何かに気を取られると、何を思ったのかテーブルの方を振り返って、完全にシープから視線を外してしまったのである。