アッチでコッチでどっちのめぐみクン-41
……………
「王様……そろそろお部屋に戻られては」
城内の廊下をもう長いこと散歩し続けているアーリストン王に、どんぐり眼の少女が進言する。
「そうだな。部屋の外に出るのは久しぶりだったので、随分長い時間歩き回ってしまった。よし、部屋に戻るぞ」
「はい。こちらから行きましょう」
王室に向かう近道を指して、少女が一団を導く。王を中央に据えた一団はその方向へと歩を進めた。
それから大して時間もかからぬうちに、一団は廊下を歩いていた一人の女性と顔を合わせる。
「フローレンス様……王様、フローレンス・ガスツヘルム様です」
「!! ……フローレンス!?」
フローレンスは王に気づくと、深々と頭を下げる。
「アーリストン王、もうお気分はよろしいのですか?」
「う、うむ。私はな。しかしお前の父親のことは……」
「……王様、私の父ルイピードのことはもうお忘れになってください」
「……いいのか、それで?」
王が、いかにも意外な反応といった態度で聞き返す。
「はい。父上に何を言われようと、王様の考えの方が正しいのですから、お迷いになられることはありません」
「!? し、しかし、お前の父親は、命を捨てて訴えたのだぞ! それを娘のお前は無視せよと言うのか!?」
アーリストン王の声が急に高くなる。
「……はい。父上には悪いと思いますが、やはり父上の主張は間違っております。お取り上げになるべきではありません」
「な、何を言うか!! お前の父親はナクティフのことをよく調べた上で、そう判断したのだ! それをお前は何をもって間違いだと断言できるのだ!」
「お、王様!?」
突然の王の激昂にフローレンスが困惑する。王の側に付いている四人の兵も戸惑いながら王の様子をまじまじと見つめていた。
「お、王様。大声を出されると、またお気分の方が……」
どんぐり眼の少女がなんとかこの場を修めようと二人の間に入る。
「む? あ、う、うむ。そうだな」
兵達の戸惑いに気づいた王が、気を取り直して大きくなりすぎた声をなんとか抑える。
「……と、とにかく私は、将軍ともあろう者が命を捨ててまで訴えた主張を無視することはできないのだ。それが、かつての私の考えとは全く異なる物であったとしてもだ」
「……そうですか。でも、王様の考えの方を支持する者もたくさんいることを覚えていてくださるよう、お願いいたします」
「……わかった。よく考えよう」
「それでは……失礼いたしました」
フローレンスは最後に再び深々と頭を下げると、そのまま王室の方向とは反対側に向かって立ち去る。
王はしばらくその背中を見ていたが、くるりときびすを返して、王室の方へと向かった。