アッチでコッチでどっちのめぐみクン-4
第2話 『吐息の中の少年と夢の中の少女』
「男らしくなりたい? ……どうしたの急に?」
葵はくわえたストローの先の乳飲料の紙パックを息を吸い込んでへこませると、自動販売機横のごみ箱へと放りなげた。
「やっぱりね、このままじゃいけないと思うんだ」
恵は自動販売機の側部に寄りかかりながら、胸の前で拳を握って力強く答えた。自動販売機は文房具店の店頭に置かれていて、その向かい側には恵たちの通う高校が建っている。当然、店も販売機も高校の生徒達に頻繁に利用されている。
「なんで?」
「なんでって……ボクだって一応男だから……」
ストレートに疑問をぶつけてきた葵の返答に、恵の声はあっという間に力強さを失う。
「……恵クンは今のままでいいと思うけどなぁ」
「……そうかな?」
「だって、恵クンらしいじゃない」
「……それ、褒め言葉かな?」
「そのつもりだけど。だいたい男らしさってなによ?」
恵は自分の頭の中にある男らしさのイメージを精一杯絞り出す。
「……それは、その……力が強いとか、ちょっとぐらいのことでくよくよしないとか……」
「恵クンは、暴力的で単細胞な男になりたいの?」
「……なんでそうなるのさ」
「だいたい男らしさの基準なんて誰が決めたのよ」
「誰って言われても……」
「案外、暴力的で単細胞な奴が言い出したことなんじゃないの?」
「……そうとは限らないんじゃ……」
「でも、犬好きに悪い人はいない、なんて言ってる人って自分が犬飼ってる人ばかりじゃないの」
「……それは……そうなのかな?」
「結局自分がそうだから、と言いたい人が他人に押し付けたことで成り立った考え方なんじゃないのかなぁ」
恵は葵の話もなんとなく理解できるような気がしていたが、だからといって自分の中にも強く植え付けられている社会的通念を否定しきれるわけでもなかった。
「……でもさ、たとえそうでも、それが広く伝わっていることも事実じゃない」
「……まぁ、そうだけど」
「……だったらボクは男なんだから、やっぱり男らしくしないといけないんじゃないかな……」
「……そうかなぁ? 自分らしくしてればそれでいいと思うけど……恵クンは男らしくなりたいと思ってるの?」
恵はちょっと迷ったが、首を縦に振って「うん」と答える。
「……あたしは今のままで恵クン大好きだけどなぁ」
「……ありがと」
恵の顔が赤くなる。それを見た葵の目が細くなる。
「……やっぱり、可愛いよねぇ……」
……………
「で、具体的にどうするの?」
葵は大きく伸びをしてベッドの上にごろんと転がった。
毎日見慣れた自分の部屋の天井の模様をなんの気なしにじろじろと見ている。
「う〜ん、どうしたらいいんだろ?」
葵の横に座った恵が首を傾けて考えこむ。
「無理して男らしくなんかすることないんじゃない?」
天井を見ていた葵が恵に視線を移す。
「……でもさ……」
「心配しなくたって恵クンは立派に男の子なんだし……」
葵はそう言いながら起き上がって恵の後頭部を抱きかかえると、目を閉じてそっと唇を重ねる。
「……ん……んむ……」
葵が微かに声を漏らしながら恵の舌に触れてくる。恵はいきなりのキスに体を堅くしていたが、すぐに我に返って葵の体を抱きしめる。
唇が離れ、葵の目が恵の目をじっと見つめる。
「……恵クンが男の子してるって、あたし知ってるよ」
そう言うと葵は恵の腕の中からするりと抜け出し、着替えずにいた制服を脱ぎ出す。
後を追うように恵も制服を脱ぎはじめた。
二人が再び抱きしめあった時には、お互いまだ数枚ずつの着衣を残していたのだが、それらを取り去るのを待てずにそのままベッドへと倒れこんでいく。
恵は葵の身体の上に覆いかぶさり、まだブラが残されている胸を揉みながら唇を重ねた。
恵の手はフロントホックを外し、あらわにされた白い膨らみに直に触れてくる。
葵の胸は大きすぎず小さすぎず恵の手の中に収まり、柔らかで温かい触感が恵の指に快感として伝わってくる。