アッチでコッチでどっちのめぐみクン-37
「ま、くれるんなら食べるわよ。美味しそうだし」
葵とめぐみもお菓子を口に運ぶ。
「美味しいでしょ?」
「うん、すごく美味しい」
「変わった味だけど、確かに美味しいわね」
「でしょう? そこのテーブルに置いてみんなでゆっくり食べましょう」
そう言ってシープは、ポット、カップ、皿をトレイに乗せて、巨大な肖像画がかかった壁の手前にあるテーブルへと運んでいく。
「……あんたも一緒に食べるの?」
「そりゃそうよ。親睦を深めに来たんだもの。ほら、カップもちゃんと三つ用意してきてるのよ」
「いいじゃない、葵ちゃん。一緒に食べようよ」
シープの言葉を信用できると考えたのか、それとも単にお菓子に釣られただけなのか、めぐみが真っ先に椅子に座る。
「……まぁ、いいわ。一緒に食べてあげても。親睦が深まるかどうかはわからないけど」
葵もシープに一応の釘を刺してから、椅子に座った。
それを見ると、シープはにっこりと微笑んで、カップにジュースを注いでいく。
「なんか、バナナみたいな匂いがする。美味しそう」
めぐみがカップに鼻を近付けて感想を口にする。
「めぐみクン、バナナシェイク好きだもんねぇ……うん、確かにそんな感じの匂いだわ」
「それじゃ、お先にいただきまぁす」
めぐみが嬉しそうに飲み始める。葵は始めて見る飲物に少し躊躇して、始めはちびちびと飲んで味を確かめてから普通にごくごくと飲みだす。
二人の向かいの席では、シープも一緒に飲んでいる。
「美味しい! これすごく美味しいよ」
カップの中を空にして、めぐみが声を大にする。
「うん、まぁ、美味しいわね。あたしの好みとはちょっと違うけど」
続いて葵がカップの中身を空にして感想を言う。
「でも美味しいことには違いないんでしょ?」
最後にシープがカップを置く。
「まぁ、そうね。美味しかったわ」
「それは良かった」
そう言いながら、シープはメイド服のポケットをごそごそと探る。
「何してんの?」
その様子を見て、葵が尋ねる。
「……ちょっとね。うん、これだ」
シープがポケットの中から親指程度の大きさの小瓶を取り出し、コルクの栓をねじって抜く。
「何よ、それ? 何かの薬?」
「うん、そう」
シープは瓶の中に入っていた液体を一気に飲み干した。
「あんた、体調でもおかしくしてるの?」
「いいえ、体がおかしくならないために飲んだの。ある薬を中和する作用があるのよ」
「ある薬?」
葵が眉を潜めて聞き返す。
「そう、ある薬。かなりの即効性だから、そろそろ効いてくるんじゃないかしら?」
「どういうこ……と? あれ?」
シープの方に体を向けようとしためぐみが、バランスを失って上半身がテーブルの上に崩れ落ちる。
「な!?」
それを見て、シープに何か言おうと椅子から立ち上がった葵も、床の上によろよろと倒れこんでしまった。
「うふふふふっ」
シープが椅子から立ち上がって、倒れた二人を見下ろしている。