アッチでコッチでどっちのめぐみクン-29
第9話 『シープの思惑』
「……大した話は聞けなかったわね」
葵とめぐみは自分達に用意された部屋に戻ってくると、すぐに階段を上ってそれぞれのベッドの上へと寝転がる。
「うん。結局話をしたのはこっちの方ばっかりだしね」
めぐみが葵の言葉にうなずく。
「まあ、あの王子様はめぐみクンについてあんまり詳しい事情を知らないような感じだったけどね。聞いてても忘れちゃってるだけかもしれないけど」
「そうかもね。あの王子様、ボクのことを何回言っても女の子と間違ってたし……」
「……ホントにね。記憶力が無いのかしら」
「なんかボクのことを、本当に女の子だって強く信じてるみたいだったよ……」
「……そんな感じもしたわね。あのシープってメイドの言う通り、ホントに馬鹿なのかも……」
「でも、今回のことって、王子の指示で進められた話のはずだから、ホントに馬鹿ってことはないんじゃない?」
「実際には、あのお爺さんが代わりに取り仕切ってるのかもよ」
「でも、王様の方に仕えてるとか言ってたような……」
「王様が王子のサポートに就くように言ったらそうするでしょ。よっぽどあの王子が頼りないって証拠かもよ」
葵はそう言いながら、ふと部屋中を見渡すと、あちこちにあるロウソクに火が灯され、それが部屋の中を明るくしていることに気づく。窓の方に軽く目をやる。
「結局、ここに泊まることになりそうね」
葵は日が落ちてしまった窓の外の風景を見ながら、めぐみに声をかける。
「うん、お父さん達、どうしてるんだろう……」
「こんな暗くなっちゃあね……めぐみクンに術をかけた犯人を捕まえるのも一苦労でしょうね……もしかしたら、今日はもう諦めてるかも」
「……その方がいいかも。とにかく無事に戻ってきてくれないと。どうせボクが女の子にされちゃうのって、こっちの世界だけの話なんだから。無理してほしくないよ」
「そうね……」
「……どうしたの?」
少し元気のない葵の様子がめぐみには気になった。
「……うん、こんな右も左もわからない世界で、もう一日過ごすってのが少し怖くて」
「……ボクは葵ちゃんがいればなんとなく平気だけど……葵ちゃんはそういうわけにはいかないよね。ボクは頼りないし……」
「えっ? いやだ、そんなことないって。あたしだってめぐみクンを頼りにしてるわよ……ほんの少しね」
「……ほんの少し……」
「ふふ、冗談よ、冗談。心の底から頼りにしてるわよ」
「……ホントかなぁ……」
「ホントだって。ただこっちにはあたしの家族は来てないしね。そのへんが少し心細いだけよ」
「そういえば、ボク達がいない間、あの大男さん達が代役を務めてくれることになったけど、ホントに任せちゃってもよかったのかな?」
「それは大丈夫じゃない? あの人達、自信満々だったわよ。きっとあたし達そっくりに化ける術でも使えるのよ」
「……行く前にちょっと見せてもらえばよかったかな?」
「そうねぇ、あたしもどんなものか見てみたかったわ」