ｱｯﾁでｺｯﾁでどっちのめぐみｸﾝ-21
そのシープと名乗ったメイドは確かに可愛らしい顔をしていた。金色の髪もきらきらと光を反射して美しい。これだけの美少女はそうはいないだろうから、性格の悪さには目をつぶると言う男は実際いくらでもいそうだ。
しかし、それにもかかわらず葵は本人に言われるまで、このシープという少女がとても可愛い顔をしていることに気づかなかった。
そして葵にはその理由がわかっていた。
葵は自分の背中に隠れておとなしくしているめぐみの方を振り返る。
「……めぐみクン、恥ずかしがってないで、いい加減顔を上げれば？ この馬鹿女に顔を見せてあげなよ」
「誰が馬鹿女よ！」
「あんたよ、あんた！ さあ、早く」
「……だってさぁ……」
「ほら、帽子を脱いで！」
「あっ！？」
葵はめぐみのかぶっている帽子を奪い取る。
めぐみの顔が帽子を追って、前を向く。
めぐみはうっすらと化粧をしていた。白く透き通った肌にまだ幼さを残した赤い唇が鮮明に浮かんでいる。
さらにロングのかつらをかぶり、薄い桃色のワンピースを着せられていて、めぐみは誰もが目を奪われるような美少女に変身していた。
「ちょっと、返してってば」
めぐみは葵の高く上げた腕にすがりついて、帽子を奪い返した。
「ほら、あんたよりも可愛い女の子」
葵は帽子を持っていた腕をそのままめぐみに向かって広げながら、どうだとばかりにシープに向かって、ふん、と鼻を鳴らす。
シープはしばらく呆然としていたが、気を取り直してめぐみの顔を睨みつける。
その迫力にめぐみは折角取り返した帽子をかぶり直すこともできずに固まっていた。
「あたしたち、王子に呼ばれてここに来たんだよねぇ……正確にいえばあたしたちじゃなくて、このめぐみちゃんだけなんだけど。あたしはついでらしいのよねぇ。王子ったら何の用があって異国に住むめぐみちゃんをわざわざ呼んだのかしらぁ？ まだ独身の王子様がこぉんな可愛い少女をお呼びになる理由っていったい何なのかしらねぇ？」
「うぅ……」
葵がわなわなと震えるシープに、にやにやと意地悪そうに笑いながら話し続ける。
「……葵ちゃん、ボクは女の子じゃ……」
「しっ！ ここは黙ってて」
めぐみが訂正しようとするのを葵はすぐさま小声で制止する。
「まだ言いたいことある？ あくまでもメイド長にすぎないシープ・チャイルさん……でしたよね？ 確か。ま、あたしはともかく、めぐみちゃんは庶民のあなたの名前なんか覚えることに意味はないのかもしれないけど」
「ぐっ……」
「とりあえず、今は何の用事も無いんでとっとと下がってくださいな」
「……はい、失礼しま、す……ご用がありましたら、お呼び……くださ、い」
そう搾り出すように言うとシープはぺこりと頭を下げて部屋から退散していった。
部屋の扉が閉められると、葵は大声で笑いだす。
「あははははっ、そーとー悔しかったみたい」
「……葵ちゃん、ボク、本当は男なのに……今は女の子にされちゃってるけど……」
「まぁ、いいじゃない。あんな勘違い女、目を覚まさせてやった方がいいのよ」
「もぅ……かつらに化粧にこんな服まで着せられて……葵ちゃん、ボクで遊びすぎだよ」
「だってめぐみクン可愛いんだもん。すごく似合ってるしいいじゃない」
「この格好のせいで哲ちゃんは抱きついてくるし……」
「……あいつはマジでケダモノだわ……」