投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

星宿
【その他 恋愛小説】

星宿の最初へ 星宿 1 星宿 3 星宿の最後へ

星宿 一章-2

 敦子は、優作にとって陽一と同じ中学時代からの友人だ。陽一も含めて四人仲間がいて、ときどき優作の家に押しかけてきては宴会をする。優作の家に集まるようになったのは、優作がなかなか誘いに応じないから強制参加、というのは表向きの理由で、本当はコンビニを経営している優作の両親が気前のいい人で、食べ物や飲み物をたくさん提供しているからなのだった。そんななか、敦子は紅一点。とはいってもみんな、敦子を女扱いをしていない。太っているわけではないけれど、もともと骨格がしっかりしているのか、全体的に横に広い印象だ。


 メールの着信音がして、優作は握っていた携帯電話を開いた。送信主が陽一であることを確認するとため息が出た。内容は、優作が旅行から帰るあさっての晩、優作に会いに行く、というものだった。
 陽一はまた、敦子と付き合えと熱心に勧めるのだろうか。うんざりしながら優作は到着した電車に乗り込んだ。


 その日の夕方、優作は木造の小さな駅に降り立った。ある旅行雑誌の『街頭や高いビルなどがないため、真っ暗になる夜は星空が綺麗に見える』という解説と、この町唯一の宿、『星宿旅館』という名前にそそられて、優作はこの町を選んだ。
 田舎の駅によく見かける観光案内等のポスターや看板はなにもない。電車が去り、踏み切りの音も止むと、あたりは急に静かになった。
 駅員のいない改札には赤い缶がくくりつけてあった。中には使用済みの切符が数枚入っている。優作は手に持っていた切符を投げ入れて駅を出ると振り返り、たった今出た建物を見た。現代らしさがまるでない。昭和初期にタイムスリップしたのでは、と優作は思った。まるで映画のセットのようなその駅をしばらくの間眺め、優作は予約している星宿旅館に行った。

 国道から細い道を入ったところに、その旅館はあった。木造二階建てのこの外観もまた、歴史がありそうな様相を漂わせていた。

「すみません! どなたかいらっしゃいませんか?」
 玄関に立ち、優作は奥に向かって叫んだ。中は静かで、旅館の人どころか人ひとり、見当たらない。

「いいかげんにしてよ! あなたが行こうって言ったんじゃない!」
 不意に威勢のいい声がして、優作の体がビクンとはねた。声がした方に目を向けると、廊下の少し離れた目立たないところにひとりの女性がいた。 
 彼女は髪の毛を無造作に束ね、パステルカラーのワンピースを着ている。肌の色は透き通るように白く、少し大きな瞳にはうっすらと涙を浮かべているように見えた。線が細いひとだな、と優作は思った。

「私がここへ来るのに、どんなに苦労したか、わかる?」
 更に喋り続ける彼女。どうやら、電話をかけているらしい。話の内容から、ここで落ち合う約束をしていた相手が来ないことに抗議をしているようだった。

 優作は、そんな彼女に目が離せなかった。話している内容が興味深かっただけでなく、その荒々しく相手を罵る口調とは裏腹に、か弱そうな彼女の外見のギャップに惹きつけられた。憂いを秘めたその横顔はいかにも幸薄そうだ。きっと清純で純粋な女性なのだろう。優作はぼんやりとそんなことを考えながら、彼女を凝視した。

 数分後、仲居らしい女性から声をかけられ、優作ははっとした。四十代半ば位の仲居は、まるで奇異なものを見るような表情で、優作と電話をかけている女性とを交互に見つめる。優作は気まずさで恥ずかしくなりながら名前を告げると、仲居はあぁ、と言って優作を二階の部屋へ案内した。

 優作が通された部屋は和室で、奥の障子を開けるとテーブルと椅子が置いてあるというよくあるタイプ。窓を開けると眼下は庭で、遠くに山々が連なって見えた。優作は、心が穏やかになっていくのを感じた。


星宿の最初へ 星宿 1 星宿 3 星宿の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前